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「ようこそようこそ」 東井義雄 (『ママもっと笑って』 青い窓の会 1987年 光雲社 の 紹介文) 【再掲載】 [読書記録 一般]

今回は 再掲載となりますが 東井義雄さんの
「ママもっと笑って」(青い窓の会 1987年 光雲社)の紹介分を載せます

「青い窓の会」は福島の和菓子屋・柏屋さんが事務局となっており
子どもの詩集で知られます
坂本光司さんの『日本でいちばん大切にしたい会社』で紹介もされています



新卒の頃 社会科の先輩Sさんから 紹介された
東井義雄さんの「村を育てる学力」
早速読み 感銘を受けて以来 東井さんの本を よく読んでいます

浄土真宗の僧侶でもあった氏の言葉
含蓄のあるものばかりです

「ママもっと笑って」という詩集の紹介文からも
教師としての目のつけどころを教えられます


およそ30年前の本ですが
この30年の間に社会が失ってしまったものの大きさを感じました

この紹介文だけ読んでも 涙が出そうになりました
本文を読んだら…




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☆「ようこそようこそ」 東井義雄 (『ママもっと笑って』 青い窓の会 1987年 光雲社 の 紹介文) 【再掲載】

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◇富田林市・金剛コロニーの辻新太郎君

 精薄に生まれただけでなくひどいてんかんの病気を背負っていた。高血圧で左半身
が不随でもあった。何重もの苦しみを背負いながら見事に耐えて生きていた彼であっ
たが、三年ばかり前、遂にいのちが尽さて亡くなった。

 亡くなってから発見された彼のノートには


       ○

  ぼくの母が訪ねてきた                         
  やせてしまって細い体になっていた
  苦労したんやな
  ぼくのために
  母ちゃん ゆるしてや
  ほくがバカヤってんな
  ゆるしてや 母ちゃん


と書き遺されていたという。何重もの重い苦しみを、最後の日まで耐えぬかせたもの
は、「やせたお母さん」だったのである。
 



◇兵庫県立盲学校の全盲の六年生のことば

「先生、そりや、もし見えたらお母ちゃんの顔が見たいわ。けど、見えたら、あれも
 見たい、これも見たいいうことになって、ぼくなんか、気が散って、ダメになって
 しまうかもしれん。見えんかて別にどういうことあらへん。
 そりゃ、見えんのは不自由やで。でも、ぼく、不幸や思ったこといっペんもあらへ
 ん。先生、不自由と不幸は違うんやな」

といったという。

 大好きな、お母さんの顔さえ見たことのない、光のない世界を生きながら、何とい
う明るきであろうか。

「そりや 、見えたら、お母ちゃんの顔が見たいわ」

と言っていることからも、この子の心の中には、「お母さん」が、ちゃんと生きてい
てくださり、それが

「不幸や思ったこと、いっペんもあらへん」

と、言わしめている のである。




◇おうちがだんだん遠ざかっている

 お母さんさえ、子どもの心の底に戻ってくだされば、盲学校の全盲の6年生の子ど
ものように、光のない世界をきえも見事に生きぬいてくれるのである。
 それなのに、お母さんたちの心は、どんどん子どもから遠ざかってしまいつつある
のではないか。

 この夏、島根県の幼い子どもたちを預かっておられるお寺の奥さんから

「預かり始めた十数年前には、朝、お母さんと子どもの別れがたいへんでした。親も
 子も、泣き別れだったのです。それが、今では、 至極あっさり別れていきます。
 預かる方もしやすいのですが、ふと、これは喜んでいいことなのかな?と、心にひ
 っかかるものを 感じるのです」

 ところが、過日、宮崎県のある保育園に伺ったときにも、園長先生がおなじことを
おっしゃるのである。

 子どもが、家へ帰りたがらなくなっているとも聞いた。




 この詩集の中に、編者は、北海道の3年生の女の子が

「日本じゅうの3年生に、おかあさんの『おかえりなさい』ということばを聞かせて
 やりたい」

という詩を入れてくださっているが、いまのお母さん方に、ぜひ、子どもたちのこの
願いを、考えてみてやっていただきたいと思う。


 昔だってお母さんたちは忙しかった。国中が貧しかったから、お母さんたちは、外
に出て働かれた。

 しかし、家に、心は残していてくださった。ある、農村の2年生の女の子の作文を
思い出す。


            〇                         


 きょうもおかあちゃんははたけだろうなとおもいながら、学校からかえってみると、
やっぱり、うちの大戸がしまっていました。

 わたしは、つまらないなあとおもいながら、よいしょと大戸をあけました。

 戸をあけたわたしはびっくりしました。にわじゅういっぱいに、なにかかいてありま
す。

 よくみると、それは、けしずみでかいたおかあさんのかおでした。

 大きなかおのところのそばに

「おかえり、やきやまのはたにいるよ」

とかいてありました。

 わたしは、けしずみでかいたおかあさんがまっていてくれたのでさみしくないとおも
いました。

 わたしは、かばんをおろしてから、けしずみを一コもってきました。そして、おかあ
さんのかおのところのそばに、小さいわたしをかきました。

 リボンをつけたわたしにしました。そして、おかあさんのほうに手をのばして、かた
たたきをしているところにしました。

「かあちゃん、かたたたいてあげるよ」

とかきました。はんたいがわに

「あしたもまっててね」

とかきました。


 すっかりかきあがったので、手をあらって、おやつをたべてから、おかあさんのか
おのところのそばで、ゆうがたまで、いっぽんふみをしてあそびました。              
   
         ○ 



 こういうお母さんによって、子どもたちは、人間の心を育てられていくのである。

 それなのに、お母さんの心が、子どもから遠ざかるようになって、子どもは、だん
だん人間でなくなりはじめている。

 昭和39年頃までの詩には、


  おかあさんのおっぱい
                東京都一年 たけとみまつ子

 せんせい
 おかあさんの
 おちちのことが
 きになってくるので
 まいにち
 きになってくるので
 せんせい
 どうやって                                   わすれますか


 というように「おかあさんのおっぱい」についてのものがいくつもでてくる。それ
が、その後、すっかり出てこなくなっている。

 これは偶然であろうか。        


 学校給食が普及して、お母さんたちは、弁当づくりの苦労から解放されなさったか
もしれない。が、


        ○

   母
           6年 樫本輝雄

 けさ学校に来がけに
 ちょっとしたことから母と言いあいをした
 ぼくは どうにでもなれと思って
 ボロクソに母を言い負かしてやった
 母がこまっていた
 そしたら 学校で 昼になって
 母の入れてくれた弁当のふたをあけたら
 ぼくのすきなかつおぶしが
 パラパラとふりかけてあった
 おいしそうに かおっていた
 それを見たら
 ぼくは けさのことが思い出きれて
 後悔した
 母は いまごろ
 さびしい心でごはんをたべているだろうかと
 おもうと
 すまない心が
 グイグイ こみあげてきた


 こういう感動は、今の子どもたちにはなくなってしまっているのである。毎日、学
校で給食を受けているのだから、遠足の弁当くらい、手づくりのおむすびに、手紙で
も添えてやれば、子どもがどれだけ感動するかもしれないのに、遠足の弁当まで、お
すし屋さんのおすしにしてしまうのである。



 この詩集の中に「こたつ」という詩が出されている。
5年生の女の子の詩である。

        ○
                                             こたつ
          福島県 5年 佐藤悦子

 あたたかいこたつ
 家のかぞくは 五人
 「五角のこたつなら
  いいのに」
 と おねえさん
 一番あとからはいる
 かあちゃんは
 私と同じ所
 私は やっぱり
 四角でもいい


 子どもは、こんなふうに、お母さんとの触れ合いの時と所を求めているのである。

                ○

     ポケット
         東京都 3年 粟辻安子

 お母さんの エプロンの
 ポケットの中をみると
 ボタンや はんけち 小さなえんぴつ
 ちり紙や ひもも はいっている
 そのほかにも まだはいっている
 ポケットに手を入れて いそがしそうに
 はたらいている
 くしゃみをすると すぐちり紙を
 出してくれる
 妹のかおが きたないと
 はんけちを出して かおをふく
 おかあさんだけのポケットではない               
 みんなのポケットだ


「みんなのポケット」とは、よくぞ言い切ったものだ。「みんなのポケット」という
ことは「みんなのお母さん」ということだ。 

 お母さん方、どうか、どうか、この詩集を手がかりに、「みんなのお母さん」に戻
ってやってください。

 それにしても、佐藤先生、ようこそ、ようこそ、日本の子どもたちのねがいを、こ
のように見事にまとめてくださいました。

「ありがとうございます」

と、こころからお礼を申します。
   
 おしまいに、一昨年いただいた熊本の女子高校生の作文を紹介させていただきたい。


          ○
     母の日
             熊本県 高一 小林ルリ子

 私が母の日を意識しはじめたのは、小学4年のときでした。一週間100円の小づ
かいの中から、50円出して、お母さんの大好きな板チョコをプレゼントしたのが始
まりでした。


 あのときは、きまりがわるくて、お母さんのエプロンのポケットにほおりこむなり、
逃げるようにふとんにもぐりこみました。

 そして、あんなものでもよろこんでくださるかしら、誰かが聞いたら笑うんじゃな
いかしらと、喜びとも、不安ともつかない複雑な気もちのまま、わたしは、いつか深
い眠りにおちていきました。


 翌朝、目をさますと、わたしの枕もとに、一枚の手紙と、板チョコの半分が銀紙に
包んでおいてありました。


「ルリ子、きのうはプレゼントどうもありがとう。お母さんね、いままで、こんなお
 いしいチョコレート、たべたことがなかったよ。
 こんなにおいしいんだもの、お母さん一人で食べるのはもったいなくて、お母さん
 の大好きなルリ子にも半分食べてほしくなりました。どうか、これからも、元気で、
 そしてすなおなよい子になってくださいね」
  


 読んでいる中に、涙がこみあげてきて、あのときほど、お母さんの子に生まれたこ
とをほこりに思ったことはありませんでした。

 あのときの感激は、生涯、忘れることができないでしょう。

というのである。

 この詩集にも「おかあさんのようなおかあさんになりたい」という詩を出してくだ
さっているが、いま、お母さん方が、ほんとうのお母さんに戻ってくださることが、
いまの女の子たちを「おかあさんのようなおかあさんになりたい」と身構えさせるこ
とにもなると考え、それを期待するからである。

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コメント 6

もーもー

感動です
涙がこみ上げてきます
この場で  勉強させてもらってます(*゚▽゚*)
印刷して  子供に読ませます
 日本の優しい気持ち  いつまでも  いつまでも
   残って欲しいものです
by もーもー (2014-03-21 09:02) 

ハマコウ

もーもー さん ありがとうございます

子どもの子どもらしい姿 感動しますし ほっとします

東井義雄さん すばらしい実践家でした
東井さんが危惧されていた以上に
このごろ子どもらしさが奥底に隠れてしまっている子が増えているような気がします
表に出せるようになるといいなあと思います

「青い窓の会」 今でも詩集を出しています
写真のような本も…

わたしも読みます

by ハマコウ (2014-03-21 10:51) 

PENGUIN

母は亡くなりましたが
生前の頃を思い出して懐かしんでいます。
by PENGUIN (2014-03-21 12:52) 

ハマコウ

PENGUIN さん ありがとうございます

優しいお母様だったのですね
子どもたちの母親にどうしても母親らしさを期待してしまいます
by ハマコウ (2014-03-21 18:02) 

いっぱい道草

今日はありがとうございました。
ずっと楽しみにしていたことでした。
休職してから2回目の飲み会。
ああ終わっちゃったという気分です。
楽しいひと時はさっと過ぎてしまいます。
  
児童詩に夢中になっていると、
子どもの書く日記から詩にできないか、
ふだん子どもが発する言葉から詩ができないかと、
とても子どもの発信に敏感になります。
小学校に勤めている時には、
教室の天井からボイスレコーダを吊り下げて、
子どもの声を拾ったりしました。
「今、いいこと言ったよね」
「聴いてみるか」なんて言ってました。
  
ここに載っている詩はどれもいいですね。
「こたつ」が特にいいです。
上記のコメントにあるように
「子どもらしさ」を感じます。
「子どもらしさ」って、子どもはどんどん表現すべきだし、
大人はそれを大切にすべきだと思います。
  

  


by いっぱい道草 (2020-01-25 20:46) 

ハマコウ

いっぱい道草さん 楽しいひと時をありがとうございました。
いっぱい話してしまいました。
通常学級を担任していたころは、毎日のように一枚文集を出していました。子どもの目を通しての文に気付かされられることがありますね。
by ハマコウ (2020-01-25 23:07) 

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