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『新版 静岡県伝説昔話集』(上巻)静岡県女子師範学校郷土研究会編1994年 ⑯ [読書記録 郷土]

今回は、6月15日に続いて、静岡県女子師範学校郷土研究会編による
『新版 静岡県伝説昔話集』(上巻)16回目の紹介です。




静岡県にある羽衣出版による、すばらしい本です。


今回は、「地蔵,道祖神」にまつわる伝説の紹介です。
採取者の女子師範学生の努力に感謝します。







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☆『新版 静岡県伝説昔話集』(上巻)静岡県女子師範学校郷土研究会編 1994年 ⑯

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7 地蔵,道祖神の話

(1)目の地蔵様 (磐田郡山香付・現佐久間町)

 久根鉱山へ行く道ばた(不動沢のすぐこちら)にお地蔵様がある。


 その地蔵様は盲の人を祀ってたてたものなので、目の悪い人がお参りすると、すぐ直る
という。


 この地蔵様を祀った由来は、そう古い事ではないという。

 落井に一軒の農家があって、ある日、道へ麦を干して置いた。そこへ盲人が通りかかっ
て、その麦を路んでしまった。


 その家の人は怒ってその盲人を追って行ったが、盲人の事だから、ついに左側の崖へ転がり落ちて死んでしまった。それで、その落ちた所へ地蔵様を祀ったのだという。
                           
                                  (本田みち)




(2)黒地蔵 (浜松市)

 昔、曳馬野に勘右衛門という百姓があった。


 非常に信仰の深い人であったが、ある日、城主様の案内役となって野口村を通りかかっ
た。


 すると「勘右衛門、勘右衛門」と呼ぶ声が聞こえる。

 勘右衛門は振り向いたが、呼んだ者はない。空耳であったかと耳をかたむけた時、また「勘右衛門、勘右衛門」という声が聞こえた。


「はい」と思わず返事をして、道端の稲の根元を見ると、その所から光が射している。不
思議に思って城主様の許しを得て、その所を掘ると、意外にも真黒い地蔵尊が出て来た。


 日ごろ信仰の厚い勘右衛門は胸をおどらせながら抱き上げた。何かの深い因縁を感じて、
じっとしていられず、ただちに暇を願って我が家へ帰り、ねんごろにその地蔵様を供養を
した。


 すると、その夜のこと、地蔵尊が夢枕にお立ちになって、

「万福寺の境内に祀ってもらいたい」

と望まれた。


 そのため、勘右衛門は、夜が明けるとさっそく住職を訪ねてその安置を頼み、程なく立
派な地蔵堂を建てることが出来た。

 そして勘右衛門の信仰は、また日一日と深まっていった。
 



 それから一年たった秋の夕暮れ、勘右衛門にはとんだ心配事が出来た。

 彼はその日、侍屋敷の前を通った時、見知らぬ武士に呼び止められた。


「折入って頼みたい事がある。人に知られたくない事だから7日後の夕方、その方一人で
 池川の堤へ来てもらいたい」

とその武士は言う。

 勘右衛門は、うっかり武士と約束してしまったが、考えれば考える程疑わしくもなり、
恐ろしくもなって来る。

 もしや試し斬りをされるのではあるまいか、だが後の難儀を思うと約束も破れない。

 我亡き後の老父母の悲しみ、妻子の嘆きを思うと、しみじみ自分の業が恐ろしくなった。

 その時、ふと、暗い心に光がさした。


「そうだお地蔵様にお願いしてみょう」


 彼は急いで野口村に行って地蔵堂に駆け込んだ。そうして地蔵尊に我が身の無事をお頼
みした。



 約束の夕方が来た。

 勘右衛門は最後の祈りをすまして、心安く夕闇迫る池川の堤に向かった。

 今は生もなく死もなき朗らかな顔に微笑みさえたたえて、生い茂る尾花を払い払い進ん
で行った。

 すると、覆面の武士が、つと現れ勘右衡門の前に立った。


「百姓よく参った。そちの命が所望じゃ」


と言う。


 勘右衛門は悪びれず、ピッタリと止まって星あかりに武士の顔を見つめたが、ただ地蔵
尊の優しい姿のみが眼に浮かんでいた。 


「えい」


と電光一石 勘右衛門はどうっと倒れた。


「よく切れる刀だ」


と、つぶやいて武士の姿は消えた。



 暁をつげる鐘に勘右衛門はふと我にかえって、風にゆれる尾花を見上げた。


「ああ、ここは昨夜の堤だ。死んだはずの自分だが」


大声で叫んではね起きた。


「傷がない、傷がない」


 さては、と彼は一散に地蔵堂にかけ戻った。

 そして合掌して思わず「あっ」とよろめいた。

 地蔵尊の右肩から左脇にかけて、生々しい刀傷が見えるではないか、しかも鮮血までも
流れている。


「おお、お身代わりにお立ち下さったのだ」


勘右衛門は歓喜と感謝に涙の止めようもなかった。


 その萬福寺というのは、今の浜松市野口町にある。          
                                  (金原せつ)


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