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教育ノートから「教師」66-「先生」クオレ ① [読書記録 教育]

今回は、10月27日に続いて、わたしの教育ノートから、
キーワード「教師」の紹介、66回目です。



クオレの「先生」。
心に響く話がたくさん詰まっています。
(クオレが何の本か?わかりません。=ハマコウ註)


今回の話、わたしには考えてしまうこともあり、複雑な思いです。





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☆教育ノートから「教師」66-「先生」クオレ ①



◇先生のひと言で  小坂真澄(岡山 会社員31歳)


 中学2年生になり、クラス替えとなった初顔合わせの日、教室はシーンと静まりかえり、
誰も声を出す人はいない中で、私は憂鬱でしかたありませんでした。


 この緊迫した教室の中で、ただ一人悪態をついて席についている少年が、その原因でし
た。


 県内でも有名な非行グループに入っている彼を恐れ、

「触らぬ神にたたりなし」

と皆が思っているに違いなかったのです。



 更に私を不安にさせたのは、新任で担任の先生でした。

 見るからに頼りなさそうで、中学生の私が見ても少女のような幼さの残る先生でした。

 色白で細身の身体が一層頼りなさを強調し、おどおどした話し方で、今にも泣き出しそ
うでした。


「この先生で大丈夫かしら?」

と半ばあきれ顔でいました。


 私は一年聞この中で生活していかなくてはならないのです。



 そんな中、授業が始まりました。


 ふと彼の方を見ると、机の上には教科書も何も置いてないのです。


 早速、先生に問いつめられると、悪びれず「燃やした」と意地悪な笑みを浮かべて先生
を睨んでいます。


 その様子は先生を威圧しているようで、教室内の雰囲気は一層悪くなり、異様な空間に
なりました。


 先生はどうしていいのかわからず、あたふたして返答に因っていました。

 突然教室のドアを閉める音がして、彼は教室から出て行ってしまいました。


 私はホッと息をつきました。たちまち教室内が明るくなり、問題児がいなくなって安心
したのか、なんとなく和やかになりました。


 誰一人として、急にいなくなった彼の事を気にかけ、心配する人はおらず、無関心でし
た。


 そして、身近に起こった事件に興奮ぎみの私達に、蚊の鳴くような小さな声で、


「みんなで探しに行こう」


とつぶやいている先生の姿がありました。


 次第に声は力強くなり、訴えるように何度も繰り返しました。


 一変して皆が口を閉ざしてしまいました。


 皆、思いは同じに違いなく、

「あんな奴ほうっておけばいい」

とそしらぬ顔をしていました。


「そんなに言うなら先生が一人で行けばいいのに」

と思いながらも根負けしていやいやながら全員で大捜索に出ました。



 他のクラスの生徒が窓からこちらを珍しそうに見ているのがわかり、「バカバカしい」
と呆れている声が聞こえて来ます。


 冷たい視線を洛びながらしかたなく探しているうち、一人の生徒が彼が非行グループと
いっしょにいるのを見つけ出しました。


 クラス全員で捜した事に彼は驚いていましたが、観念して先生に無理矢理連れ戻されま
した。


 その後も同じ事が何度も繰り返され、その度に、ゾロゾロと彼を追いかけに行ったので
す。


 不満だらけの中、いつもの様に彼が教室にいないのを見て

「あ-あ、めんどうくさいな」
と何気なく漏らした生徒に、先生は今まで聞いたことのない迫力のある大きな声で叫びま
した。


「みんなが揃って初めてこのクラスが成り立つんじゃないの」


 力強い口調でした。先生の目が潤んでいるのが分かりました。

 興奮のあまり肩が震えているのが痛々しく、皆が無言になってしまいました。



 だれからともなく自然に彼を捜し始めました。


 先生の迫力に圧倒されたと言うより、「情熱」に打たれての行動でした。




 そんな日が続き、彼を捜すのが日課になってしまい、まるで「鬼ごっこ」へと変化しま
した。


 男の子の中には「み-つけた」とか「てこずらせるなよな」とジョーダンぽく言えるよ
うにまでいつしか変わっていきました。


 そんなある日、彼は席について

「もう″鬼ごっこ″も飽きたよ」

と照れくさげに笑ってみせたのです。


 彼はそれから授業に真面目に出て来るようになり、すっかりクラスの一員になったので
した。



 考えてみれば、彼をけむたがり、目も合わせなかった私達です。そんな教室にただ一人
孤立している彼は、居づらかったに違いありません。

 あのまま彼を無視し続けていたらみんなの心も通い合わず殺伐とした一年が過ぎていた
ことでしょう。揃って一つの事を成し遂げた事で初めて「クラスメート」になれたのだと
思います。


 先生の力強い言葉によって「鬼ごっこ」の鬼はいなくなり、新しく「クラスメート」が
誕生したのです。




 あれから年月が過ぎ、先生に逢うこともありませんが、今でもこの一件を思い出すと先
生の顔が私を見守っていてくれるような笑みで心が和らぎます。

 今でも多くの生徒を見守っていることでしょう。

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