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教育ノートから「教師」 69 -「先生」クオレ ④ [読書記録 教育]

今回は、11月20日に続いて、わたしの教育ノートから、
キーワード「教師」の紹介、69回目です。



クオレの「先生」。
心に響く話がたくさん詰まっています。


もう一度読みたいのですが、記録ミスで出典、「クオレ」が何の本かがわかりません。

残念です。




「こころの絵の具」
- 貧しさとは何か 豊かさとは何かを考えさせてくれます。




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☆教育ノートから「教師」69-「先生」クオレ ④



◇こころの絵の具  阿部広海(静岡 教員46歳)

 男ばかりの5人兄弟で4男の私は、生活があまり楽ではなかったため、伯母の家に預け
られた。


 山梨の片田舎にある温泉まちの小さな分校に転校することになった。


 3年生の春のことであった。



 クラスは、3、4年生が一つの学級で、ちょうど10人であった。


 担任の先生は、U先生といって、小太りの、おつむがツルツルの、お寺の和尚さんのよ
うな風貌の先生であった。

 白髪まじりの長い顎ひげをはやしていて、それを右手で包むようにさわるのが癖だった。


「先生はな、おつむの毛がみんな顎にいっちゃって…このとおりピカピカじゃ」


と言って頭をさすり、子どもたちをいつも笑わせてくれた。


 授業もユーモアたっぶりに、面白い話をまじえながら、学びの世界へ引き込んでくれる。


 国語の授業中、こんなことがあった。大きなハエが一匹教室の中に入ってきて、U先生
のおつむの上をぐるぐる旋回している。子どもたちの目は、全員じ先生のおつむに注がれ
ていた。


 その時、一瞬ハエがU先生のおつむに止まったかと思ったら、しりもちをつくように滑
ってしまったのである。


 着地に失敗したハエは、またじ先生のおつむの上を旋回しては止まろうとするのだが、
見事に滑っては、その行為をくり返しているのである。それはちょうど、むじゃきな子ど
もが滑り台に夢中になっているようだった。教室中は大爆笑。


 すかさず机の袖に掛けてあった鳥打ち帽子を頭にのせ、授業を続ける先生。


 話題も、その出来事を用いて、小林一茶の俳句(やれ打つな蛾が手をすり足をする)に
ついて、心情や情景をとても面白く話してくれたことを覚えている。



 U先生の顔を見ているだけで心が和み、愉快になる。家にいると農作業ばかり手伝わさ
れるので、学校に行くのが気休めにもなり楽しかった。


 ただ、そんな中でとてもイヤな時間があった。


 それは、図工と習字の時間であった。


 鉛筆やノートも満足に買ってもらえなかった私は、他の高価な文具など、とてもねだる
ことなどできなかった。


 私の絵はいつも鉛筆仕上げだった。習字の時間は他のことをして遊んでいた。




 二学期に入って校内の写生大会があった。学校の裏山に登って″秋の村の風景を描く″
という課題であった。


 私は、いつものようにスケッチが終わると、さっさと片付けて木登りをして遊んでいた。


 そこへU先生が、彼岸花や野菊や山ブドウやザクロの実をどつさり新聞紙に包んで、
息を切らしてやってきた。


「ノンちゃん、もう終わったんか…どうだ、今日は色をつけてみんか…」


「無理だよ、絵の具ねえからさ……」


「絵の具なんかなくたって描けるぞ、ちょっと来てみろノンちゃん」


と言ってU先生は、新聞紙を広げて摘んできた花や実の汁をパレットに絞り出し、耳に
はさんでいたススキの穂で描きだしたのである。


 私は、まるで手品師のようなじ先生の指さばきにみとれていた。


 白い画用紙の上に淡い赤や紫や緑の色が次々と広がっていく。


 美しい色合いに、感動を通りこして、涙が出そうなくらい嬉しくなって、自分も夢中に
なって描いていった。


 粘土を水で溶いたり、落ち葉をモザイクのように貼り付けて自分なりに工夫していくこ
とも覚えた。



 何もない白い画用紙に、植物の命の色が重なっていく度に、新しい発見がある。


 その不思議さに私の夢はどんどん広がっていった。そしていつしか、大人になったら絵
の先生になろうと心に決めていた。




 あれから38年、今、中学と高校で美術の教師をしている。


 U先生から教えて頂いた、あの感動と心のときめきを、子どもたちに教えたい。そんな
思いで指導をしている。


 一枚の絵を描くことによって、子どもたちの好奇心や冒険心、創造力が触発されていけ
ばとっ思っている。



 私の机の上には、U先生の描いた水彩画がスタンドケースに入れて飾ってある。


 自分を見失いかけた時、この絵をじっと見ることにしている。


 春の日差しのような、あったかさが五体を包んでくれる。


 そして、背中の重い荷物をほうり捨てて、子どもの頃に帰らせてくれるのである。


 もうこの世にはいないけれど、私の心の宮殿の中に、U先生はいつまでも生き続けてい
てくれている。


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