SSブログ

草柳大蔵さんはこんなことを45(最終) [読書記録 教育]

今回は、1月10日に続いて、わたしの読書ノートから、
「草柳大蔵さんはこんなことを」45回目の紹介 最終です。


「続午前8時のメッセージ」(静岡新聞社)から最後の紹介です。




出版社の案内には、


「評論家・草柳大蔵が送る待望の第2弾。家庭、学校、社会、さまざまな角度から子ども
 の心を見つめ、輝く未来のために祈りを込めて語る珠玉の99話。」


とあります。




山下さんは今やIОC委員。今回は、オリンピックイヤーにふさわしい話です。



知っておきたい話が詰まった本、ぜひ手元に置いておきたい本です。




<浜松の新名所 浜松ジオラマファクトリー!>

  ものづくりのまちとも言われる浜松。
 山田卓司さんのすばらしい作品を 
 ザザシティ西館の浜松ジオラマファクトリーで味わえます。
 お近くにお寄りの時は ぜひ お訪ねください。

浜松ジオラマファクトリー





☆草柳大蔵さんはこんなことを45(最終)

1.jpg

☆「続午前8時のメッセージ」草柳大蔵 静岡新聞社 2002年(11)


◇山下泰裕氏の開眼1

 今回は「相手の誠意に気付く」、あるいは「相手が気付いたことに気付く」ということ
が世の中にとって大切だということをお話したいと思います。


 そのきっかけは、柔道の山下泰裕選手です。


 山下選手の講演内容を読んで感心しましたので抜粋して紹介したいのですが、山下さん
というのは小学校6年生のときに、身長が170センチ、体重が75キロあったといいま
す。


 ですから、みんなを投げ飛ばしてしまうんですね。


 熊本に柔道の名門藤園中学校がありまして、その柔道部監督の白石礼介先生が試合を見
にきたときに、「うちの学校に来て稽古をしないか?」と誘うんです。


 ちょうどおじいさんが熊本にいるということで、山下さんはおじいさんの家から通うこ
とになりました。



 山下選手はこの藤園中学でも強いという評判を得るわけですが、白石先生は「実るほど
頭を垂れる稲穂かな」とおっしゃって、強ければ強いほど、社会人として立派な人になら
なければ駄目なんだ。本当に強い奴は威張らないんだよ、ということを繰り返し繰り返し
教えるんです。



 それから、東海大学の松前重義先生に、東海大学付属相模高校へまたスカウトされるわ
けです。


 そこで今度は、佐藤宣践先生という良い先生に出会います。


 山下さんは、白石先生と佐藤先生が「今考えると私というものをつくってくれたんだ」
と思うんです。


 山下さんは、後に東海大学柔道部の監督として若い柔道選手を指導する立場になりまし
た。


 ところが当時、東海大柔道部に一人の問題児がいたんです。


 あまり柔道がうまくないから試合にも出してもらえない。


 それが気持ちの中でストレスになって稽古もサボってしまう。 



 そんなとき、岡山県に住む白血病の子が東海大の病院に入院しました。


 そのお母さんが、ふと「そういえば東海大というのは柔道が強いんだった」と思い出し
て、柔道部の選手に治療のための輸血をしてもらえるんじゃないか、と考えるんですね。


 それで山下さんのところに助けを求めてきたのです。


 そのうち、白血病の少年はお父さんの骨髄を移植されて立派に快方に向かいました。


 退院のときお母さんがお礼に来て、

「実は一人の柔道選手が、往復二時間かかるところを何度もお見舞いに来てくれた。どん
 なに息子の気持ちの支えになったか分からない。ありがとうございました」

と言うんですね。


 それが例の稽古が嫌いで道場に来ない問題児だったんです。


 それで、山下さんはその学生に、

「お前、いいことやったなあ」

と褒めたんです。


 そうしたら、山下さんに見てもらうということが嬉しくて、しょっちゅう稽古に出るよ
うになったというんですね。






◇山下泰裕氏の開眼 2

 結局、そのサボリぐせのあった学生は卒業するまでに試合には出られなかったのですが、
彼は、山下さんが「おまえを見てるからな」と言ってくれた、その言葉に感激するんです
ね。


 つまり、自分が「あの子を励ましてやろう。それが人間の変じゃないか」ということ
に気付く。


 その気付いた自分に気付いてくれた山下さんがいる。「気付きを気付く」ということが
そこで完成するんですね。


 その学生は、後に東海大学からスパッとストレートで一流企業に入ったといいます。



 山下さんが現役のとき、後ろから後輩の斉藤仁選手が追い上げてくるんです。


「大したことないや」と思っていたら、だんだん差がなくなってきたんですね。


 斉藤選手を何とかして倒さなきゃ、というときに、佐藤先生が「横捨て身をやってみた
ら」と言うのですが、山下さんは「私は腰が硬いものですから合わないと思います」と答
えるんですね。


 それから一か月ほどして、先生はまた横捨て身をやってみた方がいいと言うんです。


 それでも山下さんはやらなかった。


 三回目、また先生が言ってくれるんです。


 そこで、「俺はお前にいいんじゃないかと思って、タイミングを見て言っているのに、
お前は一回も試そうとしない。お前のその姿勢は失礼じゃないか」と叱られたんですね。


 山下選手は、それで初めてまずかったと思い、先生が言ってくれるんだったらそれは何
か気付いたんだな、と反省して横捨て身をやってみた。


 すると、きれいに技が決まるというんですね。

 そのとき信じられなかったことが、実際にやってみたらできた。

 そのきっかけは何かといったら、自分の状態と横捨て身という技が実にうまく結び付く
んだということに先生が気付いていた、ということなんですよ。



 日本はモスクワオリンピックに参加しませんでした。


 そのとき山下選手には「あなたはモスクワオリンピックの代表に選ばれました」と一枚
の紙が来ただけで、不参加についての説明は何もなかったそうです。


 ところが、アメリカではカーター大統領が、参加する選手全員を大統領官邸に呼んで、
テーブルの間を大統領自らが回りながら、


「今度は君たちの雄々しい姿を見られないで残念だった。しかし、国際情勢というものが
 あり、一国の外交というものもある。それをわきまえて一つ許してもらいたい」


と直接話をされたというんですよ。


 それがいかに「選手たちの残念な気持ちはわかっているよ」という挨拶であったかとい
うことなんですね。


 なるほど、「気付きに気付く」というのは、個人的な成長の問題であると同時に、国際
的な問題でもあるんですね。

nice!(147)  コメント(0) 
共通テーマ:学校