生涯一年生教師物語(月刊 少年育成) <子ども受難時代>「53 再び、恐喝を受けて」 鹿島和夫 /「心の記 ~ 心の危機を救え」梅原猛 光文社 1995年 ②(後半)【再掲載 2015.7】 [読書記録 教育]
今日は11月8日、金曜日です。
今回は、鹿島和夫さんの
「ふたたび、恐喝を受けて」を載せます。
四半世紀前の、月刊「少年育成」誌の記事です。
鹿島和夫さんは、「せんせい あのね」で知られた方ですが、ご存
じですか。
もう一つ、再掲載になりますが、梅原猛さんの
「心の記 ~ 心の危機を救え」②を載せます。
☆生涯一年生教師物語(月刊 少年育成) <子ども受難時代>「53 再び、恐喝を受けて」 鹿島和夫
<昨年ヨシタケシンスケさんとの共著で理論社より出ていました>
<子ども受難時代>
53 再び、恐喝を受けて
ぼくは、隆司のお父さんの恵邦男から恐喝されたことを、灰谷健次
郎に話した。
どうしようもなくて、場所が学校という子どもの世界で行なわれた
ことであるし、無事平穏に済ませたかったので、お金を渡してしまっ
たということをいった。
その時、灰谷は、
「それは、まずかったなあ。そんなやつは、絶対にまた味をしめて、
何回もきよるで」
といった。
ぼくは、半信半疑で聞いていたが、数日後、灰谷の予想通りに、お
父さんは、再び、学校へ電話を掛けてきたのである。
「先生に話がありますねん。学校へ行ってもよろしいかな」
電話口から、お父さんのダミ声が聞こえてきたとたん、ぼくは震え出
した。
あわてて、思い付きの返事をいってしまった。
「学校へ来るのは、困ります。どこか、ほかの場所で会いますから」
「そうでっか。どこがよろしいかな」
ぼくは、とっさに、霞ケ丘駅前の喫茶店の名前をいった。
いきつけの店だし経営者も懇意にしている人なので融通がきくと思っ
たからだ。
電話を切ってから、ぼくは、すぐに灰谷に応援を求めた。
すると、喫茶店に行って様子を見てようという返事をもらった。
指定された時刻に、灰谷は、建設会社の社長をしている友人で大西
という人を連れてきていた。
彼は、やくざとの修羅場を何回も経験している人だった。
ぽくは、予定の時刻に喫茶店に入った。
店主には事情を話しているので、なにもいわずに、奥まったところ
に位置するテーブルに座った。
反対側の入り口付近には、すでに灰谷と大西社長が向かい合って座
り、お茶を飲みながら談笑していた。
やがて、お父さんが店に入ってきた。
この間の黒づくめの男も付いてきていた。
ぼくの前に座ると、飲み物も注文しないうちに、お父さんから話し
かけてきた。
「先生ね。先生は、恐いねえ。この間は、5万しか入ってなかったで
すがな。あれだけの金で、手打ちするつもりでっか」
「なにいうてんですか。お金を持ったら、さっと出て行ってしまった
のは、あなたですよ。あれで、納得してくれたんじやなかったので
すか」
この度は、ぼくには、心強い応援が見守ってくれている。
いざとなったら助けてくれる。
二人は、後ろのテーブルに座っている灰谷たちには、全然気がつい
ていないようだった。
「実は、それ相応のものが入っていると思いましたんですわ。すまへ
んなあ」
黒い男は、穏やかな物言いでいった。
この間の居丈高な雰囲気とはえらい違いだ。
と思ったとたん、男は、お父さんに向って怒鳴った。
「お前があわてるからやんけ。ぼんやりしとるからじゃ」
すると、お父さんも男に向って怒鳴り返した。
「お前に、いわれたないわ。お前は、関係あれへんやんけ」
二人は、わざと争って強がりをいっているように思えた。
おどしを掛ける時、一人が暴力的に弾圧的に強く攻め立てて、一人
は、柔らかく懐柔策で攻めてくるのがセオリーだということを、以前
に、本で読んだことを思い出していた。
今度は、男が、ぽくに向っていった。
「この男は、一家離散で困ってますねえ。なんとか、援助してやって
もらえませんやろか。この男も、立ち直りたいというてまんねん」
哀れんだ顔で黒い男は、あごをしゃくってお父さんを指し示した。
「先生に、あんな本を出されて、困りますがな。名誉毀損で裁判に訴
えたろか、先生。そうなったら、先生も首になりますで」
ぼくは、笑ってしまった。今日は、きちんと話が聞ける。
「お父さん、裁判なんかしたら、お父さんのほうが困るんと違います
か。恐喝の罪で、7年ぐらい刑務所いきでっせ。前科があるから十
年ぐらいくらいますかな」
ぼくは、口からでまかせをいった。
こんな出鱈目をよく思いついたものだ。
「本がぎょうさん売れてますなあ。印税というやつが、先生にがっぽ
りはいったんと違いますか。隆司の作文が評判になったおかげと違
いますか」
と男がいった。
「子どもの作文を商売にするなんて、先生も、あこぎなことをしはり
ますなあ」
とお父さんが付け足した。
「だけど、そんな先生を脅して、金を巻き上げようとするんですから、
お宅らも、極悪人ですなあ」
「ええかげんにさらせ。おとなしくしてたら、付け上がりやがって。
先生やと思って静かに話したろかと思ってたら、今日は、えらい態
度がでかいですなあ」
男の声が高くなってきた。
「あんまり、大きな声をださんといてくださいな。この店の人たちに
迷惑が掛かりますがな。それはそうと、さっきから、あなたたちの
言動をじっと見ている人がいますが、あの人たちは、警察の人でっ
せ。ぼくが呼んで来てもらったんですよ。わかってますか」
といって、目で後ろを合図した。
驚いた二人は、後ろを振り返った。
灰谷と大西社長は、知らぬ顔で表の通りを眺めているふりをしてい
る。
その様子は、刑事が張り込んでいる風景と同じだった。
「おい、立て」
というや、男に促されて二人は立ち上がった。
そそくさとドアに向った。
そして、ドアを開けると足早に逃げるようにして立ち去った。
二人は、「はっはっはっ」と大きな声で笑った。
「先生、ようやりましたなあ。名演技でした」
と大西社長がいった。
☆「心の記 ~ 心の危機を救え」梅原猛 光文社 1995年 ②(後半)【再掲載 2015.7】
◇日本人の道徳性
□江戸期
儒教
~ 仁義
仁 … 人間に対する思いやり
義 … 人間に対する義務
君に対する忠と親に対する孝
神道
~ 清明心,自然崇拝
偽りのない清い心
うそを言わない心
儒教
~ 自己犠牲の道徳
- 自負の高さと厳しい禁欲的道徳
仏教
~ 利他の道徳 - 自利利他
□終戦
教師
「道徳というものは時代が変われば変わるものである。道徳とい
うのはもう頼りにしない方がいい。強く一つの道徳を信じるこ
とはやめよう。」
→ 道徳に対する不信感
→ 父親が道徳を教えなくなった
・ 馬車馬のように働き,道徳などと言うものはどうでも
いい。
・ 法律に触れなければそれでいい。
□経済的成長
道徳について問わなくなった
教育ママ
家庭の道徳教育心の教育が行われていない
「平和と民主主義」は道徳教育ではない
- 国家の理想・目的がない
マルクス主義の偽善
神道の清明心
… 罪を犯しても懺悔すれば許してきた
嘘を言わないこと
◇言葉
言葉が堕落すれば民主主義が滅ぶ
◎清明心
(神道の徳)
◎自利利他
(仏教の徳~政治=井戸塀 利他行 → 自利自利)
◎勤勉
二宮尊徳
◇教育
明治以後 日本の中学
学科として英語と数学の優位
実用的ではない
西欧の科学技術文明を受け入れる基礎学力
◇和の精神
和と忍耐
「和(やわらぎ)をもって尊しとなす」(聖徳太子)
和があればフランクに議論できる
◇宗教
ドストエフスキー
「人間は神なしに生きられるか」
欠けている三つの教育
① 創造性の教育
② 環境教育
③ 心の教育
今回は、鹿島和夫さんの
「ふたたび、恐喝を受けて」を載せます。
四半世紀前の、月刊「少年育成」誌の記事です。
鹿島和夫さんは、「せんせい あのね」で知られた方ですが、ご存
じですか。
もう一つ、再掲載になりますが、梅原猛さんの
「心の記 ~ 心の危機を救え」②を載せます。
☆生涯一年生教師物語(月刊 少年育成) <子ども受難時代>「53 再び、恐喝を受けて」 鹿島和夫
<昨年ヨシタケシンスケさんとの共著で理論社より出ていました>
<子ども受難時代>
53 再び、恐喝を受けて
ぼくは、隆司のお父さんの恵邦男から恐喝されたことを、灰谷健次
郎に話した。
どうしようもなくて、場所が学校という子どもの世界で行なわれた
ことであるし、無事平穏に済ませたかったので、お金を渡してしまっ
たということをいった。
その時、灰谷は、
「それは、まずかったなあ。そんなやつは、絶対にまた味をしめて、
何回もきよるで」
といった。
ぼくは、半信半疑で聞いていたが、数日後、灰谷の予想通りに、お
父さんは、再び、学校へ電話を掛けてきたのである。
「先生に話がありますねん。学校へ行ってもよろしいかな」
電話口から、お父さんのダミ声が聞こえてきたとたん、ぼくは震え出
した。
あわてて、思い付きの返事をいってしまった。
「学校へ来るのは、困ります。どこか、ほかの場所で会いますから」
「そうでっか。どこがよろしいかな」
ぼくは、とっさに、霞ケ丘駅前の喫茶店の名前をいった。
いきつけの店だし経営者も懇意にしている人なので融通がきくと思っ
たからだ。
電話を切ってから、ぼくは、すぐに灰谷に応援を求めた。
すると、喫茶店に行って様子を見てようという返事をもらった。
指定された時刻に、灰谷は、建設会社の社長をしている友人で大西
という人を連れてきていた。
彼は、やくざとの修羅場を何回も経験している人だった。
ぽくは、予定の時刻に喫茶店に入った。
店主には事情を話しているので、なにもいわずに、奥まったところ
に位置するテーブルに座った。
反対側の入り口付近には、すでに灰谷と大西社長が向かい合って座
り、お茶を飲みながら談笑していた。
やがて、お父さんが店に入ってきた。
この間の黒づくめの男も付いてきていた。
ぼくの前に座ると、飲み物も注文しないうちに、お父さんから話し
かけてきた。
「先生ね。先生は、恐いねえ。この間は、5万しか入ってなかったで
すがな。あれだけの金で、手打ちするつもりでっか」
「なにいうてんですか。お金を持ったら、さっと出て行ってしまった
のは、あなたですよ。あれで、納得してくれたんじやなかったので
すか」
この度は、ぼくには、心強い応援が見守ってくれている。
いざとなったら助けてくれる。
二人は、後ろのテーブルに座っている灰谷たちには、全然気がつい
ていないようだった。
「実は、それ相応のものが入っていると思いましたんですわ。すまへ
んなあ」
黒い男は、穏やかな物言いでいった。
この間の居丈高な雰囲気とはえらい違いだ。
と思ったとたん、男は、お父さんに向って怒鳴った。
「お前があわてるからやんけ。ぼんやりしとるからじゃ」
すると、お父さんも男に向って怒鳴り返した。
「お前に、いわれたないわ。お前は、関係あれへんやんけ」
二人は、わざと争って強がりをいっているように思えた。
おどしを掛ける時、一人が暴力的に弾圧的に強く攻め立てて、一人
は、柔らかく懐柔策で攻めてくるのがセオリーだということを、以前
に、本で読んだことを思い出していた。
今度は、男が、ぽくに向っていった。
「この男は、一家離散で困ってますねえ。なんとか、援助してやって
もらえませんやろか。この男も、立ち直りたいというてまんねん」
哀れんだ顔で黒い男は、あごをしゃくってお父さんを指し示した。
「先生に、あんな本を出されて、困りますがな。名誉毀損で裁判に訴
えたろか、先生。そうなったら、先生も首になりますで」
ぼくは、笑ってしまった。今日は、きちんと話が聞ける。
「お父さん、裁判なんかしたら、お父さんのほうが困るんと違います
か。恐喝の罪で、7年ぐらい刑務所いきでっせ。前科があるから十
年ぐらいくらいますかな」
ぼくは、口からでまかせをいった。
こんな出鱈目をよく思いついたものだ。
「本がぎょうさん売れてますなあ。印税というやつが、先生にがっぽ
りはいったんと違いますか。隆司の作文が評判になったおかげと違
いますか」
と男がいった。
「子どもの作文を商売にするなんて、先生も、あこぎなことをしはり
ますなあ」
とお父さんが付け足した。
「だけど、そんな先生を脅して、金を巻き上げようとするんですから、
お宅らも、極悪人ですなあ」
「ええかげんにさらせ。おとなしくしてたら、付け上がりやがって。
先生やと思って静かに話したろかと思ってたら、今日は、えらい態
度がでかいですなあ」
男の声が高くなってきた。
「あんまり、大きな声をださんといてくださいな。この店の人たちに
迷惑が掛かりますがな。それはそうと、さっきから、あなたたちの
言動をじっと見ている人がいますが、あの人たちは、警察の人でっ
せ。ぼくが呼んで来てもらったんですよ。わかってますか」
といって、目で後ろを合図した。
驚いた二人は、後ろを振り返った。
灰谷と大西社長は、知らぬ顔で表の通りを眺めているふりをしてい
る。
その様子は、刑事が張り込んでいる風景と同じだった。
「おい、立て」
というや、男に促されて二人は立ち上がった。
そそくさとドアに向った。
そして、ドアを開けると足早に逃げるようにして立ち去った。
二人は、「はっはっはっ」と大きな声で笑った。
「先生、ようやりましたなあ。名演技でした」
と大西社長がいった。
☆「心の記 ~ 心の危機を救え」梅原猛 光文社 1995年 ②(後半)【再掲載 2015.7】
◇日本人の道徳性
□江戸期
儒教
~ 仁義
仁 … 人間に対する思いやり
義 … 人間に対する義務
君に対する忠と親に対する孝
神道
~ 清明心,自然崇拝
偽りのない清い心
うそを言わない心
儒教
~ 自己犠牲の道徳
- 自負の高さと厳しい禁欲的道徳
仏教
~ 利他の道徳 - 自利利他
□終戦
教師
「道徳というものは時代が変われば変わるものである。道徳とい
うのはもう頼りにしない方がいい。強く一つの道徳を信じるこ
とはやめよう。」
→ 道徳に対する不信感
→ 父親が道徳を教えなくなった
・ 馬車馬のように働き,道徳などと言うものはどうでも
いい。
・ 法律に触れなければそれでいい。
□経済的成長
道徳について問わなくなった
教育ママ
家庭の道徳教育心の教育が行われていない
「平和と民主主義」は道徳教育ではない
- 国家の理想・目的がない
マルクス主義の偽善
神道の清明心
… 罪を犯しても懺悔すれば許してきた
嘘を言わないこと
◇言葉
言葉が堕落すれば民主主義が滅ぶ
◎清明心
(神道の徳)
◎自利利他
(仏教の徳~政治=井戸塀 利他行 → 自利自利)
◎勤勉
二宮尊徳
◇教育
明治以後 日本の中学
学科として英語と数学の優位
実用的ではない
西欧の科学技術文明を受け入れる基礎学力
◇和の精神
和と忍耐
「和(やわらぎ)をもって尊しとなす」(聖徳太子)
和があればフランクに議論できる
◇宗教
ドストエフスキー
「人間は神なしに生きられるか」
欠けている三つの教育
① 創造性の教育
② 環境教育
③ 心の教育