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私の「夜間中学」教師体験記・命の光がいっぱいの教室 いっぱいの学校 ③ 夜間中学校教論・松崎運之助 『致知』2004.3 [読書記録 教育]

今回も 一昨日 昨日に引き続き 雑誌「致知」より 
松崎運之助さん「命の光がいっぱいの教室 いっぱいの学校」
の紹介3回目です(今回は連続して紹介します)

今回は 紹介が長くなりますが おつきあいください
松崎さんから感動をいただけます

夜間学校に集まるさまざまな人々の学ぶ姿
そこからわたしが学ぶこともたくさんあります
「本当の学び」とは何か 考えさせられます



今回の紹介からは・・・
「どんなに落ちぶれてもぼくは学校の先生にはならない」
 どんなに落ちぶれてもとは?
 見かけだけ 経済的状況だけで人を判断する冷たい教員の姿…
 子どもの家庭での姿もしっかり思い浮かべられるようにとは思っていても
 ふと文章中の教員のような態度をとっていないか 
 身が引き締まります

「自分も夜間中学の仲間に入れて下さい」
 学校現場もゆとりがなくなってきています
 部活指導帰り 先輩に喫茶店に誘われ
 いろいろなことを教えていただいた若い頃
 今若い人たちに伝えたいことはたくさんあるのに
 なかなかその時間をとることができません
 連帯感はありますが かつてのような仲間意識は…
 「自分も仲間に入れてください」
 と 実習生に言われる現場にする工夫を考えたい…

「地位とか名誉とか権力とか、世の中のギラギラしたものと無縁の人間」
 わたしも目指します




「致知」に載せられた松崎さんのことば
いろいろなことを教えてくれます



一昨日 学年の畑を耕耘機で耕しました
なかなか時間がとれず ジャガイモ植え付けに間に合うか不安です
しかし 小一時間 放課後の作業
気持ちのよいものでした



☆私の「夜間中学」教師体験記・命の光がいっぱいの教室 いっぱいの学校 ③ 夜間中学校教論・松崎運之助 『致知』2004.3

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◇どんなに落ちぶれてもぼくは学校の先生にはならない
 私たち親子に対し、学校の先生は一貫して冷たい対応でした。給食費も滞っ
ている、いつも汚い格好をしている、成績は良くない、落ち着きはない。
 しかも、児童に「どぶ川のバラックには近づいてはいけない」と指導してい
る、そのバラックから通っているのです。

 いまとなれば先生の気持ちも分からなくもないですが、やはり子どもには辛
い日々でした。

 授業の前、毎朝衛生検査がありました。身だしなみや身体の衛生面を調べる
のですが、うちにはハンカチやちり紙、まして爪切りなど買う余裕はありませ
ん。担任の先生は

「まったくだらしがない。何回言えば分かるの…」

と言って、私の手をぴしゃりと叩き、決まって、

「あんたの母親は子どもを放ったらかして何やってんのかね」

と、吐き捨てるように言いました。
 何やっているって、母は毎日一所懸命働いているのです。それは私が一番よ
く知っています。自分が叩かれるのは何でもない。しかし、友達の前で大好き
な母を馬鹿にされ、罵られると、私の小さな子ども心はぐしゃぐしゃでした。

 きっと学校の先生というのは、どこか日当たりのいい二階家に住んで、レー
スのカーテンがかかっていて、ピアノの音が流れる、そんな家のお嬢さん、お
坊ちゃんなんだ。
 だから私たちのような暮らしはまったく分からない。こんな人たちに比べた
ら、バラックの隣の部屋に住んでいる的屋のおっちゃんのほうが、ずっと優し
くて温かい。
 たとえどんなに落ちぶれても、僕は絶対学校の先生にだけはならない。
 そう誓いました。

 中学卒業後は、少しでも母の助けになりたかったので、就職し地元の造船所
で働きました。18歳になると中学の同級生たちは高校を卒業。その姿を見て、
急に高校へ行きたくなり、遅まきながら18歳で定時制高校へ入学。
 すると今度は大学にも行きたくなって、上京し、町工場で働きながら夜間の
大学に通いました。

 15の時から工場で働いていたので、私は溶接やクレーン、ボイラーなど、
数々の資格を持っていました。せっかく大学を出るんだから、何か資格をプラ
スしたい。
 そう思った私は、まったくなる気もないのに教職課程を履修しました。資格
取得には、最後に教育実習に行かなければなりませんが、日中は働いているの
で、昼間の学校へは行けません。
 大学にどこか夜間に行けるところはないかと相談し、紹介されたのが夜間中
学だったのです。


◇自分も夜間中学の仲間に入れて下さい

 実習初日、ここがあなたの受け持つ教室ですよと案内され、驚きました。自
分が実習に来たのは夜間中学だったはず。なのになぜこの人たちはひらがなの
勉強をやっているのだろう?
 中学国語の免許を目指していましたから、『走れメロス』を題材にした授業を
準備してきていましたが、ひらがなの勉強をしている方々に、どうしてそんな
授業ができるでしょうか。
 しかし私の驚きをよそに、生徒の皆さんは一所懸命ひらがなの練習をしなが
ら、

「先生、『の』っておたまじゃくしがひっくり返ったみたいだね」

と、目をキラキラと輝かせています。

 そのクラスには特に勉強熱心なおじさんがいました。廊下に貼ってある「廊
下を走らない」という文字を、

「これが『ろうか』で、こっちが『はしらない』と読むんですよ」

と教えて差し上げると、

「ほう、これが『はしる』という字ですか! 本当に右から左へ走っているみた
 いですね」

なんて感動する。

 ところが、ある日を境にその方がバタッと姿を見せなくなりました。あれほど
目を輝かせ、スキップを踏むように学校に来ていたのにどうしたんだろう。
 心配になって指導の先生に聞いてみると、絞り出すような声でおっしゃいまし
た。

「…あの方は、実は病気なんだ」

 小さな頃から活字をつくる工場で働き、何十年も鉛を吸い続け、鉛中毒で体は
ボロボロ、いまは絶対安静の状態だというのです。本当は通学できる体ではない
のに、学校へ行かなければ死んでも死に切れんと医者や家族の制止を振り切って
通ってきていたのです。
 学校ではそんなことをおくびにも出さず、いつもキラキラ目を輝かせて勉強な
さっていましたが、その光はご自分の命を削って輝かせていたのです。

 私は目の前が真っ暗になりました。自分は大学まで来て、一体何の勉強をして
きたのだろう。その方は学校に入る以前、生活との闘い、仕事との闘い、いろん
なご苦労があったはずです。
 私はそんなことに思いを馳せることなく、学校で見せるほんの数時間の姿だけ
でその人を判断していました。毎晩顔を合わせている人の、体温を感じるくらい
近くにいる人の悩みや辛さも分からずに何が勉強だ、何が先生だ。

 そうして浮かんできたのは母の顔でした。日雇いで働きながら一所懸命育てて
くれた背中、

「大丈夫よ、母ちゃんがついているけん、心配なかよ」

と励まし続けてくれた笑顔。
 母だけではありません。いつも私たち親子を助けてくれたバラックの人たち、
中学を出て就職した造船所の職工さん、女工さんたち。自分はその人たちから支
えられ生きてきたのに、夜間とはいえ学歴の階段を上るうち、彼らの思いとは遠
いところへ行ってしまったんだ-。

 私は泣きながら指導の先生のところへ行き、

「きょう限りで実習を辞めさせていただきます」

と申し出ました。

「こんなふやけた人間が、こんな薄っぺらい人間が、先生と呼ばれるなんてとん
 でもない。どこかでもう一度自分の魂を鍛え直してきます」

「松崎さん、それは違う。違うんだよ。それに気づいたことがどれだけ立派か、
 どれだけ素晴らしいか。松崎さんはどこかで鍛え直すと言うが、そのどこかに
 だってこの学校と同じ現実があると思う。それならここでやっていくのが一番
 いいじゃない。辞めるなんて言わないで一緒に勉強していこう」

 先生の一言一言が深く心に染み入って、話し終える頃には自分もここの仲間に
入れてほしい、と心から思いました。


 地位とか名誉とか権力とか、世の中のギラギラしたものと無縁の人間がここに
いる。人間の誠実さがここにある。私は夜間中学でもう一度人間としての勉強を
やり直したいと思いました。
 そうして都の教員採用試験では夜間中学だけを希望れて合格。それから30年
以上の時が経ちました。


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コメント 4

楽しく生きよう

昔は先生と言えばインテリという時代のことなのでしょうか。
もし今でもこのような先生がいるとしたら悲しいです。
by 楽しく生きよう (2012-03-03 10:46) 

ハマコウ

楽しく生きよう さん  いつもありがとうございます

昔のことだからといって 書かれているような人がいたとは思いたくありません
子どもの心に寄り添える教員でありたい…
by ハマコウ (2012-03-03 12:46) 

mizuho

涙がこぼれそうになりました。
本当にいいお話を、ありがとうございます。
人間としての勉強は、どこでも、いくつになってもできるのだ、
そういうことに気づける人でありたいと強く思いました。
by mizuho (2012-03-03 23:27) 

ハマコウ

mizuho さん  いつもありがとうございます

希望して夜間学校に通い 学ぶ楽しさを味わう姿
美しく感じます
気づいたときから勉強できる その通りですね

気づくことが貴重だと思います
by ハマコウ (2012-03-04 05:26) 

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