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「こころの絵の具」  AHさん(静岡 教員46歳) 『先生』クオレより④ [読書記録 教育]

今回は 6月21日に続いて 『先生』クオレ(?)から
AHさんの「こころの絵の具」を紹介します


『先生』クオレよりとありますが 何に依るのかがはっきりしません
先生についてのエッセイ集のようなものだったと記憶していますが出展は不明です
かなり古い本だと言うことは確かです



今はこのようなことが行われる時代ではありますが
何が子どもの心にやる気を起こさせるか分からないと言うことを教えてくれます


教師のひと言 何気ない心遣いの大切さを感じます
このようなことを望んで入った教員の世界
初心を思い出させてくれる文章でした


昨日は 子どもたちを引率して アクトシティ浜松大ホールへ
劇団四季の「こころの劇場」ミュージカル鑑賞
多くの起業 行政の支援を受けての事業出そうですが ありがたく感じます
『エルコスの祈り』を 市内他校の6年生と共に
編入したばかりの日本語がよく分からない外国人も楽しめたようでホッとしました







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☆「こころの絵の具」  AHさん(静岡 教員46歳) 『先生』クオレより④


 男ばかりの5人兄弟で4男の私は、生活があまり楽ではなかったため、伯母の家に預け
られた。

 山梨の片田舎にある温泉まちの小さな分校に転校することになった。3年生の春のこと
であった。



 クラスは、3、4年生が一つの学級で、ちょうど10人であった。担任の先生は、U先
生といって、小太りの、おつむがツルツルの、お寺の和尚さんのような風貌の先生であっ
た。白髪まじりの長い顎ひげをはやしていて、それを右手で包むようにさわるのが癖だっ
た。


「先生はな、おつむの毛がみんな顎にいっちゃって…このとおりピカピカじゃ」


と言って頭をさすり、子どもたちをいつも笑わせてくれた。



 授業もユーモアたっぶりに、面白い話をまじえながら、学びの世界へ引き込んでくれる。


 国語の授業中、こんなことがあった。大きなハエが一匹教室の中に入ってきて、U先生
のおつむの上をぐるぐる旋回している。


 子どもたちの目は、全員先生のおつむに注がれていた。


 その時、一瞬ハエがU先生のおつむに止まったかと思ったら、しりもちをつくように滑
ってしまったのである。


 着地に失敗したハエは、また先生のおつむの上を旋回しては止まろうとするのだが、見
事に滑っては、その行為をくり返しているのである。

 それはちょうど、むじゃきな子どもが滑り台に夢中になっているようだった。


 教室中は大爆笑。


 すかさず机の袖に掛けてあった鳥打ち帽子を頭にのせ、授業を続ける先生。


 話題も、その出来事を用いて、小林一茶の俳句(やれ打つな蛾が手をすり足をする)に
ついて、心情や情景をとても面白く話してくれたことを覚えている。



 U先生の顔を見ているだけで心が和み、愉快になる。家にいると農作業ばかり手伝わさ
れるので、学校に行くのが気休めにもなり楽しかった。



 ただ、そんな中でとてもイヤな時間があった。

 それは、図工と習字の時間であった。鉛筆やノートも満足に買ってもらえなかった私は、
他の高価な文具など、とてもねだることなどできなかった。

 私の絵はいつも鉛筆仕上げだった。習字の時間は他のことをして遊んでいた。


 二学期に入って校内の写生大会があった。学校の裏山に登って″秋の村の風景を描く″
という課題であった。


 私は、いつものようにスケッチが終わると、さっさと片付けて木登りをして遊んでいた。

 そこへU先生が、彼岸花や野菊や山ブドウやザクロの実をどつさり新聞紙に包んで、
息を切らしてやってきた。


「ノンちゃん、もう終わったんか…どうだ、今日は色をつけてみんか…」


「無理だよ、絵の具ねえからさ……」


「絵の具なんかなくたって描けるぞ、ちょっと来てみろノンちゃん」


と言ってU先生は、新聞紙を広げて摘んできた花や実の汁をパレットに絞り出し、耳に
はさんでいたススキの穂で描きだしたのである。


 私は、まるで手品師のようなじ先生の指さばきにみとれていた。


 白い画用紙の上に淡い赤や紫や緑の色が次々と広がっていく。美しい色合いに、感動を
通りこして、涙が出そうなくらい嬉しくなって、自分も夢中になって描いていった。


 粘土を水で溶いたり、落ち葉をモザイクのように貼り付けて自分なりに工夫していくこ
とも覚えた。


 何もない白い画用紙に、植物の命の色が重なっていく度に、新しい発見がある。


 その不思議さに私の夢はどんどん広がっていった。そしていつしか、大人になったら絵
の先生になろうと心に決めていた。





 あれから38年、今、中学と高校で美術の教師をしている。U先生から教えて頂いた、
あの感動と心のときめきを、子どもたちに教えたい。そんな思いで指導をしている。


 一枚の絵を描くことによって、子どもたちの好奇心や冒険心、創造力が触発されていけ
ばと思っている。


 私の机の上には、U先生の描いた水彩画がスタンドケースに入れて飾ってある。

 自分を見失いかけた時、この絵をじっと見ることにしている。

 春の日差しのような、あったかさが五体を包んでくれる。そして、背中の重い荷物をほ
うり捨てて、子どもの頃に帰らせてくれるのである。


 もうこの世にはいないけれど、私の心の宮殿の中に、U先生はいつまでも生き続けてい
てくれている。






<イベントのお知らせ>

「いちゆうのヒトin浜松vol.8」
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 浜松市出身の女性講談師 田辺一邑さんの独演会が 今夏も浜松で行われます
 お時間があればぜひご来場ください
 今回は来年のNHK大河ドラマ「女城主井伊直虎」特集 期待大です

 日時:8月7日(日)14:00~
 場所:浜松市地域情報センターホール
 料金:前売り2500円 当日2700円
 詳しくは「浜松寄席の会」のサイトhttp://hamamatsuyose.gozaru.jp/をご覧ください


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