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「ありがとう、嘘をついてくれて」 YY(大阪 主婦47歳)『先生』クオレより⑤(最終) [読書記録 教育]

今回は 6月24日に続いて 『先生』クオレ(?)から
YYさんの「ありがとう、嘘をついてくれて」を紹介します


『先生』クオレより とありますが 何によるのかがはっきりしません
先生についてのエッセイ集のようなものだったと記憶していますが出展は不明です
かなり古い本だと思うのですが…




「Y先生」も「森本先生」も同じ教員
教員の言葉が毒にもなるし 薬にもなる
わたしたちの戒めとなる文章です
今で言う発達障害の子どもをからかったわたしたちに言ったM先生の言葉
「先生は弱い者の味方だ!」
を思い出しました



先日 誕生日を迎え 妻が祝ってくれました
あと数年で定年となります
若い教員に 先輩から教わったこと 本から学んだことを伝えていかなければ
と強く思っています




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☆「ありがとう、嘘をついてくれて」 山本ゆう子(大阪 主婦47歳)『先生』クオレより⑤(最終)


 運動場の真ん中から、足元に転がって来たドッジボール。


 拾ってY先生に手渡そうとした瞬間、ボールが地面に叩き付けられた。


 何が起こったのかと、きょとんとしているわたしに投げつけられた言葉。



「何も出来ないのに、余計なことをするな」



 小学校3年の2学期が始まったばかりだった。

 担任の先生が産休をとり、代わりに来たのが若いY先生。

 昼休みにはドッジボールを楽しむ、お兄さんのような先生に、男の子達は大喜びだ。


 給食を残さず食べないと教室から出てはいけないと言われ、食が細いわたしは、いつも
仲間に入れなかった。

 その日は珍しく皆より一足遅れて、外に出られたのだった。

 先生がわたしの手からはたき落としたボールは、他の子の手に。

 そしてまた別の手に。



 わたしは一人、教室に戻るしかなかった。

 Y先生に嫌われている。

 のろまで、運動が苦手で、無口で、可愛いくない女の子。仕方がないと思った。


「この問題のわかる人」


 ハイハイと、元気に手を挙げる同級生達。


「水野」


 うつむいていたわたしが指名された。

 黒板に書いた答えは間違いなく、先生はそれを確かめると、さっと黒板消しで消した。


「なぜ手を挙げない」


 険しい目を向けたあと先生は、同じ問題に別の子を指名した。

 その頃から、わたしは毎朝頭痛がし、給食の前にはおなかが痛くなり…。

 本当だった。

 決して仮病なんかじゃない。

 だが、Y先生はクラスの皆の前で、そう言った。

 辞書で仮病という文字を見つけた時、わたしは先生をというより、自分自身を憎んで泣
いた。




 なぜ、こんな風に生まれて来たのだろう。

 もっと可愛くて活発ならば良かったのに。

 死んでしまいたい。

 どうしたら死ねるのか。


 今より、情報のずっと少なかった時代の話だ。方法が思い浮かばなかった。





 厳しい母に追い出されるようにして学校へ行き、冬が過ぎ、やがて春になった。

 4年生も、Y先生が担任だったらどうしよう。

 相談相手はいない。

 母はいつも頭ごなしだし、陰気で仮病を使うわたしから、友達は去って行った。


「このクラスを受け持つ森本です」


 四十代だろうか。

 眼鏡をかけた男の先生。

 Y先生ではなかったものの、目の前が真っ暗になった。

 冷たそうな顔。

 きっと、わたしはまた嫌われる。

 給食は、個人差があるのだから残しても良いと言われたのだけが救いだった。

 でも、もう昼休みに遊べる友達はいないのだ。



 そして五月の家庭訪問。


「うちの子は気がきかないし、勉強もしないし、本当に困った子で」


 いつもの母の言葉。

 はいはいと、うなずいていた森本先生は、一方的な母の話が一段落した所で、きっぱり
と言った。


「水野さんは、とてもいい子です。お母さんは間違っていますよ。僕は水野さんが大好き
 です」


 嘘つき!ふすまの陰にいたわたしは、心の中でそう叫んだ。本当は大嫌いなくせに。


「みんな、水野さんみたいな頑張り屋さんと、友達になれるといいね」


 教壇での先生の言葉だ。

 何が頑張り屋なものか。わたしは弱虫で、生きるのが辛くて、何も一生懸命する気が起
こらないというのに。


 真面目。

 優しい。

 作文が上手。

 字が丁寧。

 先生は毎日のように、わたしをほめる。

 ネタがなくなると、とにかく良い子だと言う。

 そのせいかわたしの周囲は少しずつ賑やかになって来た。

 離れて行った友達が戻り、新しい同級生とも仲良くなれた。

 気がつくと、いつの間にか自殺願望は消えていた。




 教育の技術。

 先生の本心は、決してわたしを好きではなかったと今でも思う。

 でも、わたしは森本先生が大好きだ。嘘をついてまで、かばってくれた先生が。


 わたしだけではない。

 家庭に問題がある子、真面目なのに勉強の出来ない子。うまくやれない子を中心に、先
生は励まし続けてくれた。


 自分の仕事に情熱を持ち、真剣に取り組んでいる。

 そんな森本先生の姿勢に、心を打たれないはずがない。


 あれから40年近くが過ぎた。小学校時代を思い出す時浮かぶのは、わたしを救ってく
れた森本先生の顔。


 森本先生の嘘つき。でも、ありがとう。









<イベントのお知らせ>

「いちゆうのヒトin浜松vol.8」
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 浜松市出身の女性講談師 田辺一邑さんの独演会が 今夏も浜松で行われます
 お時間があればぜひご来場ください
 今回は来年のNHK大河ドラマ「女城主井伊直虎」特集 期待大です

 日時:8月7日(日)14:00~
 場所:浜松市地域情報センターホール
 料金:前売り2500円 当日2700円
 詳しくは「浜松寄席の会」のサイトhttp://hamamatsuyose.gozaru.jp/をご覧ください


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侘び助

何だか自分の子供時代が思い出されて(貧しい母子家庭)
胸がいっぱいになり思わず涙が・・・
今こうして皆様と繋がれるいい人生になれたことに感謝を
by 侘び助 (2016-07-02 17:06) 

ハマコウ

侘び助さん ありがとうございます
叱られて初めて頑張る子もいますし 叱られると萎縮してしまう子もいます
その子にとってどのような関わり方をするのがよいのかと考えているつもりですが 的はずれのこともあるのが 教職の恐ろしいところです
Y先生のようにならないようにと気を引き締めます
by ハマコウ (2016-07-02 22:17) 

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