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「人間らしいかしこさとは(1)」八ツ塚実  『思春期の心を開く力』② 朱鷺書房より [読書記録 教育]

深夜、ふと目が覚め ラジオのスイッチを入れたとき
太いようなやさしいような声が聞こえてきました

修学旅行時 バスガイドさんの
「あなたがたの行いがよいから今日は晴れました」
の言葉に笑う中学生たちに
「そんなことで笑ってよいのかな」
と諫めた話

人間科授業で使われた
様々な教材の話

に目が覚めました

10年ほど前のことです

八ッ塚実さんを知り、多くの本を読みました
大変に魅力的なことがたくさん書かれていました

子どもをどう見つめていけばよいのかを
教わりました

今回も先日に引き続き
「思春期の心を開く」朱鷺書房
より 考えさせられた話を紹介します




☆「人間らしいかしこさとは(1)」八ツ塚実  『思春期の心を開く力』② 朱鷺書房より

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◇「学力」って何

 先生 せんせい センセイ
 今ごろの世の中
 みんな学力学力っていうでしょう
 あのイヤラシイ学力って
 一体 何のこと?
 わかりやすく説明して下さい
 まさか テストの点数じゃないですよね
 先生
 ずっと前 こういったでしょう
「学力とは力だ
 学ぶ力だ
 力とは 何かをするもとになる
 エネルギーだ              
 簡単に数字にすることができるか!」
 うちの教育ママゴンなどは
 完全にテストの点数だと思っていますよ                                  
 私は、この詩を「きいてください、心のうちを」という冊子に使った。
中学2年生の女の子が、「生活の記録」に書いていたものだ。
「学力」とは、読んで字のごとし、「学ぶ力」である。好奇心、探求心に
供えて、学習していくエネルギーだ。このエネルギーの量が、人によって
ちがうというなら、それでもいい。だからといって、それぞれのちがうエ
ネルギー量を、どうやって数字にしようというのか。

 好奇心、探求心の向かうところは、人によってみなちがう。

 得意、不得意の分野も、人によってみなちがう。

 現在、テストでの得点が、「学力」として使われているのは、他に方法
がないから、仕方なく利用しているだけなのだ。

 ・学力は学ぶ力だ。

 ・学ぶ力があるなら、たくさん学んでいるはずだ。

 ・たくさん学んでいるなら、知識も多くなり、問題を解く力もついて
  いるはずだ。

 ・ということになれば、問題を解かしてみて、よく解く者は、「学力
  がある」と判断してもよいはずだ。

 ・点という数値にするには、現在のところこの方法しかない。

 ・この「数値」を「学力」 の代用として利用しよう。

 現在、学力として扱われている数値は、従って学力そのものではないの
である。代用である以上、あくまでも代用なのだ。これを唯一絶対の判別
資料に使うことには、無理がある。一番囲ったことは、偏った、限られた
教科だけが数字にされていることである。

 しかし、実際には、それが学力そのものとして使われ、人物判断の資料
として使われている。たしかに、真の学力によって獲得した点数もある。
そんな点の取り方をする子もいる。
 一方、点数だけなら、学力はなくても、取れる。混入する「学力とは無
縁の点数」。現在、エスカレートを続ける点取り競争は,後者に属すと言
えよう。点数取りの広い範囲を占めるものに「点取り技術」「点取り訓練」
があるからだ。


◇人間性の裏づけこそ

 私は、「学力」の中には、「人間性」も含まれると考えている。そのこと
を考えさせる一つの実例を紹介したい。

 A君、B君という二人の秀才がいた。この二人は、いずれ劣らぬ実力の
持ち主で、得点は、どの教科も完璧なものだった。現在の学力測定法でい
えば、大変な学力の持ち主といえる。

 高校進学は、二人とも全国でも有数の進学校に受験し合格した。

 合格発表のあった日、A君は学校にやってきた。自分の担任をはじめと
して、全教員にお礼のあいさつをして回った。「先生のおかげです」と、
見事な礼儀正しさだった。

 特に私が胸をうたれたのは、校務員の小父さんや、事務・養護の先生の
ところへも、忘れずに行ったことだ。お父さんかお母さんかが、そのよう
にするように言われたのかもしれない。黙っていると、普通の中学生は、
忘れてしまう。

 A君は、担任に申し出て、ただちに第二・第三志望高校の受験手続きを
取り下げた。自分の受験で、人に迷惑をかけたくないという考えからだ。

 B君も同じ超難関高校に合格した。合格発表以来、学校へ来ないばかり
か、担任へも何の連絡もなかったという。

 ところが驚いたことに、B君は、行くつもりもない第二・第三志望校に
受験したという情報を担任はつかんだ。当然、彼の力なら合格だ。

 行く必要のなくなった学校に受験する人は少ない。せっかく手続きして
いるんだからというのであれば、合格通知を受け取っても、すぐに辞退届
けを出すのが礼儀というものだ。

 ところが、B君は、入学手続きをしないばかりか、辞退届けも出さない。
こういうことをされると、高校側は因る。繰り上げ補欠入学者が決められ
ないからだ。

 高校からB君の担任に村して、矢の催促である。入学しないのなら早く
正式な辞退届けを出してほしいのだ。本人を説得してほしいというわけだ。

 B君の担任は、大あわてで説得した。ところがB君の返事は「ノー」の
一点張り。どうしてそんなことをするのかという担任の質問に、B君は冷
ややかに答えたという。

「オレは、困らしてやるんだ。なるほど、オレが辞退すれば補欠のヤツは
 繰り上げ合格して喜ぶだろう。だからオレは、それを一日伸ばしに伸ば
 してやるんだ」

 不特定の人間に対する、この憎しみは何なんだろう。縁もゆかりもない
人を苦しめて、喜ぶ感覚を、私は理解できなかったし、許せないと思った。

 秀才と呼ばれる人間の持つ、もう一つの顔なのだ。おそらくB君は、教
科の点数が抜群であるということで、幼い日から、周囲からかしずかれて
育っていたのだろう。点数への極端な関心が、重大なことを一つ見落とさ
せてしまったのだ。

 気がついたら、まるで自分が帝王であるかのような意識が、少年の心を
占めてしまっていた。


 私は、学力のことを考えるとき、いつもこのエピソードを思い出す。B
君は、最後まで自説を曲げなかったと聞いている。結局、二人ほどの補欠
入学者を、数日間ヤキモキさせただけなのに。

 彼のやったことは、周囲の人間がとやかく言うことはできまい。彼が彼
の実力で、彼の考えに従ってやったことだから。
 だが、私は今、彼の周辺に存在する問題点が気がかりだ。

 ・そのとき、親はどうしていたのだろう。

 ・担任には、指導力はなかったのか。

 話をA君にもどそう。

 A君は、私が顧問をしていたクラブ(自然観察クラブ)に入っていたの
で、人柄はよく知っていた。大変な秀才であると同時に、人間的にも魅力
があり、常にリーダーとして尊敬を受けていた。好奇心と探求心のかたま
りで、「学ぶ力」ということになれば、右に出る者はいなかった。

 進んで学級活動・生徒合活動・クラブ活動に参加し、人のために働くこ
とを喜びとするような中学生だった。

 A君は、科学者になった。その科学者に、かつて私が理科を教えていた
のだと思うと、少々恥ずかしくなる。

 そんな彼に、私は一度たずねたことがある。帰郷の折、訪ねてくれたと
きに。

「君の勉強好きは、今でも印象深くて忘れられない。あれは生まれつきで
 すか」
「いえいえ、とんでもない。ばくは、小学校の低学年の頃は、遊んでばか
 りいて、成績だって良くなかったですよ」
「へえ、意外なこともあるんだなあ。ちょっと信じられない。だって、君
 の場合、人から教えてもらって身につけるというより、自分から進んで
 調べぬくというところがあったからなあ。当時から、本物の学習者だっ
 たよ」
「ぼくの場合、エンジンは、小学校の後半にやっとかかったんです。結構
 な野生児で、友達と面白くやりました。塾とか家庭教師とかいわない時
 代だったし」
「そんな中から、本格約な学力を具えた学習者が生まれる原因を知りたい
 もんだね」
 こんな話をしながら、私と彼は酒をくみ交わした。小学校・中学校で勉
強法などを、いろいろ話してくれて、彼は任地へ帰って行った。


◇攻撃的な勉強のすすめ

 それから一カ月ほどして、A君は手紙をくれた。二人で話したことを、
文章で整理してくれたのだ。その後思い出したことなども交えて。

 帰省の際には、お世話になりました。あの時の話題は、主として、私の
小中学校時代の勉強法のことでした。不十分だったことや、その後思い出
したことも加えて、あらためて書いてみます。

 幼少年時代のさまざまな体験の中で、きわ立ってその後の私の研究生活
に役に立っていることが二つあります。
 その一つは、友だちと力を合わせ、工夫して作ったゲーム盤で遊んだこ
とです。現在の子どもたちの周辺にあるものと比べれば、幼稚極まるもの
でした。それでも、

 自分たちでルールを作る。
 行きづまったら、解決策を考える。
 何度もやってみる。
 予想をたてて、確かめる。

 このような、探求の原則を体験できたのです。
 テレビも無ければ塾もなく、知識を他動的に受けとめなかったことは、
幸いでした。
 小学校時代、宿題以外は家に帰ってやったことはありません。しかし、
自分の頭で考える遊びだけは、よくやっていました。

 二つ目は、図書館通いの習慣が身についたことです。このきっかけは、
小学校5年生の夏休みのときでした。歴史の宿題が出ました。大変簡単な
テーマだったのですが、野生児のようによく遊んでいた私には大変でした。

「天保」とか「享和」とかいった年号を表にするものでした。年表を調べ
れば何でもないことだったのですが、そのような年表のあることを誰から
も教えてもらえませんでした。

 そこで図書館へ行き、歴史の本を見せてもらって作ることにしました。
後で考えると、これが「運がよかった」のでしょう、歴史読み物を貸して
下さったのです。小学生向けの物語を、かたっぱしから読んで、文章の中
に出てきた年号を並べました。

 9月のはじめ、クラスの人の作った見事な年表を見てびっくりしました。
その時、年表というものがあり、みんなはそれを写したことを知ってガッ
カリしました。

 しかし、この時からです。私がわからないことは自分の力で調べるとい
うことをやり始めたのは。図書舘に調べに行く楽しみも知りました。読書
の楽しみも、期せずして知ることができました。

 勉強とは、こんなに面白いものかと、はじめて体験しました。

 学校で習うより早く、塾で習って、成績が良くなったという母親たちの
言葉を聞くにつけ、子どもたちに「自ら学ぼうという姿勢があるのかどう
か」と疑問に思います。

 知識は量だけではなく、「如何に獲得したか」という、その過程が大切
なのではないでしょうか。

 そのために、先生が「教室詞集」の中で述べられているように、「受け
身ではなく、攻撃的な勉強のすすめ」こそが、今の子どもたちに必要な
ことと考えられます。   (後略)


◇学びのエネルギー

 この手紙は、まだまだ続く。紹介は、この程度にしておきたい。          
 お読みいただいたように、A君は、勉強というもの全てを、自分の好
奇心・探求心でやってきたし、今もその延長線上で学術研究にはげんで
いる。この手紙は、具体的な「学力論」なのだ。
 自学自習が究極の目的であるなら、人間は遅かれ早かれ、「他者による
教育」の状態から脱皮しなくてはならない。       

 教育の成果は、
    ・どれだけ早く
    ・どれだけ確実に

 自学自習の態勢に入れたかなのだ。ところが現在の風潮は、

    ・どれだけ手厚く面倒をみるか
    ・どれだけ、いつまでもかかわるか
    ・どれだけ手助けで得点を上げさせるか

ということに集中している。自学自習の力を身につけさせるという、本来
の目的とは程遠い営みが続けられている。

 この自学自習の力こそ、学力にほかならない。他者による「手助け教育」
は、できるだけ早く終わらなくてはならないものなのだ。手助けの長い方
が良いという考えは、人間無視の営利の思想にほかならない。

 簡単な例で恐縮だが、大人になってまで家庭教師の世話になるわけには
いかないのだ。
 手助けなしで自学自習できる力をつけることこそ、教育の目的なのだ。
「学力をつける」とは、本来、そういうことなのだ。  

 話を、もう二度A君にもどそう。                    

 A君は、小学生の夏の日、自作の年表を喜び勇んで学校へ持って行った。
ところが、級友の作品は見事だった。見事なはずだ、それらは出来あいの
作品を写したものだから。
 一瞬たじろいだA君に、学級担任はこう言ったという。
「A君の年表は素晴らしいものです。先生は、自分で調べて作ってくるよ
 うに言ったはずです。年表をそのまま写してきなさいとは言っていません」

 ここでもし、模写の作品がほめられて、A君のように本当の手作りの年
表が軽んじられていたら、A君はどうなっていただろう。

 点数で評定できる学力以上に、人間の生き方の内部にある測定不能の学
力に、その担任は着目していたのだと思う。

 A君が、「その後の私の研究生活に役立っている」という資質が、少年時
代の「つたなくても自分の力でやる学習」だったといっている点に、私たち
は深く学ばなくてはならない。

 A君は、おごるということを知らなかった。どんなに自分が有能でも、
それを振りまわして自慢することはなかった。悪たれ少年たちが、常にとり
まいていた。自分だって、勉強が得意でなかった時期がある。
 学習とは、一人ひとりが、自分の道を歩んでいくことで、人がとやかくい
うことではない。少年の日から、彼はのような考えをつかんでいたのだ。

 学力とは「学びのエネルギー」である。学びの対象に敬意を払いつつ、探
求していく力だ。その結果、得たものは、人に村してひけらかしたり、優位
をちらつかせたりする性質のものではない。それがわかることも、学力を構
成する要件の一つである。
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