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「浜松古跡図絵」神谷昌志 明文出版社 1987年 ⑦ /「齋藤孝の朝読書にはこの名作を! 小学校教師のための 子どもを伸ばす最強ブックガイド」齋藤孝 小学館 2014年 ① 【再掲載 2017.7】 [読書記録 郷土]

2がたくさん並んだ日。
今回は、2月11日に続いて、神谷昌志さんの
「浜松古跡図絵」の紹介 7回目です。


郷土史家・神谷昌志さんが多数の図や写真を使って浜松の歴史を教えてくれ
ます。




今回紹介分より強く印象に残った言葉は…

・「『七科約説』 上下二巻翻訳刊行 明治12(1879)年」
- 「しちかやくせつ」は日本最初の西洋医学書とのことです。
  出版は高校の新聞部時代にお世話になった浜松の「開明堂」さんです。


・「金原明善の人名録」
- 治山治水で全国に知られていました。
  昭和26年~昭和33年まで、光村図書の小学校4年生国語教科書に、
  『四品の人』として彼の治水事業が掲載されていました。


・「浜松電灯株式会社」
― 浜松市富塚地区には多くの発電のための水車があったそうです。
  安定性に課題があり次第に統合されていったようです。うろおぼえですが。





もう一つ、再掲載となりますが、「読書」でおなじみの齋藤孝さんの、
「齋藤孝の朝読書にはこの名作を!」①を載せます。
教員対象となっていますが、子どもと関わるすべての方にお薦めです。
作者別というのがいいですね。
先日、特別支援学級の子どもたちに「手袋を買いに」を読みました。
静かに集中して聴いてくれました。





<浜松のオリーブ園>

浜松にもオリーブ園ができました。
和Olieve 園のサイト





ふじのくに魅力ある個店
静岡県には、個性ある魅力ある個店がいくつもあります。
休みの日に、ここにあるお店を訪ねることを楽しみにしています。
機会があれば、ぜひお訪ねください。
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<浜松の新名所 浜松ジオラマファクトリー!>

  ものづくりのまちとも言われる浜松。
 山田卓司さんのすばらしい作品を 
 ザザシティ西館の浜松ジオラマファクトリーで味わえます。
 お近くにお寄りの時は ぜひ お訪ねください。





☆「浜松古跡図絵」神谷昌志 明文出版社 1987年 ⑦

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◇明治年代医学士の浜松往来

 浜松病院附属医学校教員として太田用成を招へい 
「七科約説」 上下二巻翻訳刊行 明治12(1879)年

 福嶋豊策 明治12(1879)年浜松病院長 
   のち開業
日楽(現ヤマハ)の山葉寅楠を浜松に呼んだ

 ベルツも浜松に 明治25(1892)8.28



◇金原明善の人名記と印章

 中央政財界と交友 
   上下二巻『人名記』(記念館) - いろは順
  
 多くの書



◇東海道線浜松停車場と機関車 

 東海道線全線開通 
   明治21(1889)年7月

 浜松駅
   明治21(1888)年9月
浜松-豊橋間の完成が早かったため 
     天竜川架橋に手間取る

 明治31(1888)年時刻表
   浜松-名古屋間 3時間55分
一日のダイヤ = 上り3本 下り3本



◇浜松電灯の創業とその役員

 浜松電灯株式会社
   明治35(1902)年9月(伝馬町)
明治37(1904)年1月 発電所(砂山町)
明治44(1911)年
     日英水電(株) → 早川電力 → 東京電灯



◇俳人・松島十湖と百人一句塚

 豊西町 卸嶽神社境内に「百人一句塚」
     「撫松庵」



◇国立銀行と浜松商業会議所

 明治6(1873)年 資産金貸付所(半官半民)

 明治22(1889)年 資産銀行(伝馬町)

 明治10(1877)年 
   第28国立銀行
→ 明治22(1889)年 第35国立銀行に合併
   → 静岡銀行に一本化

 浜松商業会議所
   明治26(1893)年創立 鶴見信平



◇遠州出身力士

 最高位は天竜三郎(大久保町出身 昭和5年に関脇位)



◇木橋の時代

 天竜橋
   1876(明治9) 金原明善 たびたび流失

 1882~1883(明治15~16)
   池田橋、豊田橋、浜名橋

 音作橋(宇布見~馬郡)
   中村音作による - 補修費莫大

 掛塚橋
   明治39(1906) → 大正14(1925)年県に買い取ってもらう 
1955(昭和30)年~1970(昭45) 鉄橋化に向け伴い有料化








☆「齋藤孝の朝読書にはこの名作を! 小学校教師のための 子どもを伸ばす最強ブックガイド」齋藤孝 小学館 2014年 ①【再掲載 2017.7】

<出版社の案内>
小学校教師のための最強ブックガイド
学力の基本は国語力。子どもたちに国語力を身につけさせるためには読書習慣の
確立と的確な読書指導は欠かせません。本書は小学生を読書の魅力に目覚めさせ
るためのノウハウ満載の小学校教師のための齋藤孝流名作文学ブックガイドです。
朝の10分間読書、家庭学習指導に最適! 好奇心と社会性を育てるために小学生
にぜひ読んでほしい日本と世界の名作文学の魅力と読みのポイントを齋藤孝氏が
伝授します。宮沢賢治、芥川龍之介からトットちゃん、ムーミンまでバラエティ
に富んだ作品群が登場。先生が気に入ったページをそのまま子どもたちに読んで
あげてください。
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◇宮沢賢治①

◎日本のアンデルセン 

 童話~詩的   
 池水火風 4元素
 オノマトペ


「セロ弾きのゴーシュ」
  イライラ → 成長  
  全文音読を!
 

「いちょうの実」  1・2年生  
  一人一人の子どもの巣立ち 
  音読で!


「よだかの星」 2・3年
賢治の魂の清らかさが入っている


「貝の火」 2・3年 
  持ち主の心の状況が現れる玉 



◇宮沢賢治②  高学年

「注文の多い料理店」
9作 動物の命を奪うのは平気だが自分の命を奪われるのはイヤ
→ 殺される動物の気持ちがちょっと分かっただろう
ユーモア


「グスコーブドリの伝記」
  自己犠牲


「銀河鉄道の夜」 4・5・6年  
  不思議  
  友だちと別れて自分一人が戻る
  ◎ 妹(トシ子)への思い  
  音読を!


◎ 「齋藤孝の音読破 銀河鉄道の夜」宮沢賢治 小学館



◇イソップ 前620~前564 古代ギリシア

◎イソップを読まずに大人になった人々が増加している。
 「親子でやる齋藤式まとめ力を付けながら読むイソップ」
                 齋藤孝 マガジンハウス


「ウサギとカメ」


「肉をくわえたイヌ」
  欲望は×


「金のたまごを生むメンドリ」
  欲望は×


「北風と太陽」
  北風式VS太陽式


「アリとキリギリス」 
  ~ 「セミとアリ」
    セミがあまりいない地方でキリギリスに


「キツネとブドウ」
  ひがみ・負け惜しみ


※短い話 + 教訓 = 人生訓話 寓話



◇新美南吉 1913~1943 半田市

「ごんぎつね」
  悲しくても心があたたまる 
  情緒力 「惻隠の情」


「手袋を買いに」
  母子の通い合い


「おじいさんのランプ」
  時代の流れを乗り越える


◎ ちょっと辛い目にあったり、ちょっと引け目を感じたり、そういう人の気持
 ちが、うまく描かれている

 ※「いぼ」「うた時計」など短い作品も


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小浜逸郎さんはこんなことを24-「いまどきの思想 ここが問題」PHP 1998年 (3) /「生涯一年生教師物語第9章 阪神大震災時代」 鹿島和夫 月刊『少年育成』より ①【再掲載 2012.11】 [読書記録 教育]

今回は、2月7日に続いて、
「小浜逸郎さんはこんなことを」24回目、
「いまどきの思想 ここが問題」3回目の紹介です。


今回はわたしには分かったような、分からないような…。



出版社の案内には


「日本人はさまざまな社会問題をどう感じ取り、思想としてどう考えているのか。本書は、
 戦後ニッポンの思想的問題点をとりあげた評論集である。テーマは戦争総括、歴史教科
 書問題、大江健三郎のノーベル賞問題、オウム、援助交際論、フェミニズム、クローン
 技術への危機意識など多岐にわたる。 例えば、昨今、物議をかもした『歴史教科書問
 題』。自虐的な歴史観を超えよ、という風潮の中、著者は、政治イデオロギーの対立と
 して考えること自体が間違いだ、と語る。慰安婦がいた、いないを論じるよりも、戦時
 に人間は何をするかわからない存在だ、という文学的想像力を育てることが先決ではな
 いのか。また、大江健三郎ノーベル賞問題とは何か。美談としてでしか報じられなかっ
 たことに、この国の批評精神の貧困さを嘆く。マスコミに流布される言説から、一歩引
 いた視点で捉え直し、自前で考える必要性を説いている。日本人の無邪気な知性を論駁
 した意欲作である。」

とあります。





今回紹介分から強く印象に残った言葉は…

・「『恨み節』は『知の北朝鮮』だ
お勉強ばかりしていないでちょっと巷に出てごらん」


・「ミスコンは共通了解下のこと 差別ではない!」


・「別姓問題は、個人の権利さえ訴えていけばすむような夫婦だけの問題ではなく
て、『平等性の彼岸』にある家族空間の問題に関わるから割り切れない。別姓
  を使う権利さえ認められればよい」


・「日本人は『他者依存性』から脱却できない。独特の相互依存の精神構造をもつ」




もう一つ、再掲載となりますが、月刊『少年育成』より、鹿島和夫さんの
「生涯一年生教師物語-第9章 阪神大震災時代」①を載せます。
淡々と具体的に記されていて恐ろしさと準備の大切さを教えてくれます。





<浜松のオリーブ園>

浜松にもオリーブ園ができました。
和Olieve 園のサイト





ふじのくに魅力ある個店
静岡県には、個性ある魅力ある個店がいくつもあります。
休みの日に、ここにあるお店を訪ねることを楽しみにしています。
機会があれば、ぜひお訪ねください。
2.jpg




<浜松の新名所 浜松ジオラマファクトリー!>

  ものづくりのまちとも言われる浜松。
 山田卓司さんのすばらしい作品を 
 ザザシティ西館の浜松ジオラマファクトリーで味わえます。
 お近くにお寄りの時は ぜひ お訪ねください。




☆小浜逸郎さんはこんなことを24-「いまどきの思想 ここが問題」PHP1998年 (3)

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◇フェミニズムの旗手たちを論駁する

□フェミニストが陥る陳腐な被害者意識

 社会的差別をなくしていこうという主張はくめる
↑↓
性差そのものがけしからん
男女が個別につるむこと自体が問題という主張

◎ 共同体(性)としての狡猾さ


□男と女が引きつけ合うエロス的関係性は?

 美しく「見られる(見せる)」ことに喜びを見出して、自分を磨こうとする女性
が圧倒的に多いという事実をどう解釈するか?


□政治的なフェミニスト・上野千鶴子を斬る


□ミスコン反対議論から「ストロベリー・シーズン」削除問題まで

 「どろんこ祭り」も消えた

→ 男らしさ、女らしさのイメージを固定化してしまうから


□「恨み節」は「知の北朝鮮」だ

 お勉強ばかりしていないでちょっと巷に出てごらん


□吉澤夏子の可能性


□「男対女」という図式自体が間違っている


□夫婦別姓は、子供・家族の問題まで考えるべき

 別姓問題は、個人の権利さえ訴えていけばすむような夫婦だけの問題ではなく
て、「平等性の彼岸」にある家族空間の問題に関わるから割り切れない

◎ 別姓を使う権利さえ認められればよい


□「家族」の原理論的追及  

 家族 = 絶対的運命的空間


□「ミスコン」は果たして差別か?

 ◎ 共通了解下のことは差別ではない!


□「差別」を規定する原則とは?

  女性のエロス的身体的価値と人格的価値はあいまいに重なり合う
 



◇クローン技術や生命操作をそれほど危惧することは…

□私たちの周りには生命操作があふれている

 人間に関する「生命操作」をやってきている
避妊、中絶、不妊手術、人工早産、未熟児哺育、人工栄養 
排卵促進、人工授精、体外受精、延命措置、メガネ…

   ◎ 人間はそういった業を負ってきている


□遺伝子決定論への盲信

 遺伝子は人間の形態的側面を方向付ける一条件ではあっても、意志や人格や生の
あり方を絶対として決定づける

   可塑性を持つ


□クローン技術の気持ち悪さはどこから来るのか


□クローンは個体的な主体としての統覚の自明性をぐらつかせる

 ◎ 大半の人はクローン技術などにかかわりたくないと感じている




◇新たな共同体のヴィジョンを目指して

□物差しを失った日本人の精神

 ソビエト社主崩壊に伴う知識人のアイデンティティ喪失

 日本に対するアメリカの支配力の相対的な後退

 天皇制の弱体化


□日本人は「他者依存性」から脱却できない

 日本人は西欧並みに強い「個」を確立することは無理

独特の相互依存の精神構造


□個人と社会との関係を生き生きとさせる条件は何か
 
 ① 人は、個人のみによっては生きられず、関係によって生きる

 ② 人が関係に於いて重要視しており、しかも、これを捨ててしまっては関係そ
  のものが成り立たないと考えられる条件は二つである
    (a)相手から気に入られること
(b)何らかの役割に於いて生きること

 ③ エロスの原理 (a)

 ④ 社会の原理  (b)

 ⑤(a)(b)は排他的である

 


◇卑怯な言説者の登場
 
 芹沢俊介 VS  佐藤通雅(高校教師・歌人)
吉本隆明  「そんなに言うなら、あなたがここに来てやってみなさい」
芹沢俊介はお子様教
  「芹沢は自分は逃げ腰のくせに人に向かって神になれ仏になれと要求してい
   る」

 斉藤二郎(お子様教)
コーヒーを入れながらカタストロフィを見据える







☆「生涯一年生教師物語」第9章 阪神大震災時代 鹿島和夫 月刊「少年育成」より ①【再掲載 2012.11】

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第9章 阪神大震災時代

1 その日のこと

 その日の朝、ぼくは、何か眠れずに起きてしまっていた。


 昨夜、岸本さん夫妻や春川さんが遊びにきて、久し振りに歓談のひとときを過
ごしたものだった。


 酒をしこたま飲み、酔っぱらって早くから床につき熟睡できるはずだったのに、
早くから目を覚ましてしまっていた。


 階下の自分の部屋に入り、ワープロを入力し始めた。


 昨夜は、痛飲したため、子どもの作品を学級通信に整理するのが残っていた。


 確か小さな地震があったように思ったが、みんな楽しく語らっていたために、
さほど気にならなかった。


 そういえば、夕方の6時頃だったか、やらないで過ごしてしまっていた。


 やがて、5時46分ぐらいであっただろうか。


 全部の入力が終り、印刷にかかろうとした時だった。


 ドドッと音の津波が西の方角から聞こえてきたかと思うと、部屋の電気がバシ
ッと消えてしまった。


 とたんに、真っ暗闇になった部屋が揺れだした。


 地震だ!


 ぼくは、咄嵯に、左手を伸ばして都市ガスの火を消していた。


 闇夜の中で、部屋が右に揺れ左に揺れる。まるで、大嵐の中をさまようヨット
の船底でいるようだ。

 ワープロが投げ出され、プリンターの台が横に倒れ、押し入れの道具が飛び出
て本棚がドタドタとぼくの体にかぶさってきた。


 手で上にあげようとしても、ガンとして動かない。


 ぼくは必死の思いで本棚の下から這いずり出てきた。


 そして、散らばった本の上を這いながら人目のドアの所にやってきた。


 開こうとノブを引くがなにか道具がさえぎっていて開かない。


 どうしてなんだろう。


 引けども押せどもビクともしない。


 ぼくは焦った。


 ガタガタと震えが止まらない。


 そのうちに地震は、収まっていた。


 とたんに静寂がやってきた。あたりはシーンとして人声も聞こえない。


 「オーイ」


 ぼくは、大きな声で怒鳴ってみたがだれも答えない。


 2階で寝ている家内はどうしているんだろうか。


 3階で寝ている娘は。


 ともかく、脱出しなければ。


 闇の中、手さぐりで、何かあるのか、探ってみた。


 南側の雨戸は、きちんとしまっている。


 電動シャッターで動く西側の窓はぴしっと閉められている。


 真っ暗な密室というのは、恐怖の世界のように思える。


 明りが欲しい。


 懐中電灯はどこに置いていたのか。

 

 そうだ、廊下の物入れにあるはずだ。


 ぼくは必死で机やプリンター台を押しやり、ドアを開こうとした。


 すると、神の助けか、ほんのと数センチほど開いたではないか。


 あわてて足を差し入れ、体を押し入れてみた。


 なんとか、ぼくの肥満体が抜け出ることができた。


 廊下も真っ暗。


 手さぐりで物入れの場所にいってみた。


 物入れの中も散乱している。


 確か棚の中ぐらいに置いていたから、このあたりに落ちているはずだ。


 やっと、手に懐中電灯があたった。


 あわててスイッチを入れてみる。


 さっと光線が光る。


 「わっ、これは、何だ」


 あたりは雑具がばらまかれているではないか。


 本棚は、真っ二つに割れて、ガラス戸は粉々。


 ワープロは転がり、プリンターはコードが引きちぎられている。


 本やらフロッピーやCDが、足の踏み場もないぐらいに散乱している。


 ひどい。


 ひどい、これはひどい。


 その時になって、あわてて家族の事を思い出す。


 「お-い。だいじょうぶか!」


 「だいじょうぶ!」と家内の声。


 ぼくは、あわてて、階段を駆け上った。


 2階の居間に入ると、そこにも、すさまじい修羅場が展開されていた。


 ピアノは、壁と何回か衝突を繰り返したのだろう。


 横転している。


 ぼくの自慢のオーディオセットも、応接セットもみごとに粉砕されている。


 家内と台所へ。


 なんと、システムキッチンの食器棚に入れてあった道具や大きな皿や日常的に
使っている茶わんや食器が、観音開きの戸棚からすべて投げだされていた。


 それも、ふるいにかけたように茶碗が割れているため、まるで、砂利のように
粉々になって。


 「これは、酷い」


 家内は、泣かんばかりに眩く。


 とたんに、また、ドドドッと建物が揺れる。


 「怖い、余震だ。早く、外へ逃げよう」


 ぼくたちは、あわててパジャマ姿のまま外へ飛び出した。


 「わっ、これは、なんや」


 ぼくは、驚きの声を上げてしまった。


 そこで見た外の景色が一変していたからである。昨日までに見ていた、あの風
景は、どこにもなかった。


 向かいの鉄骨の建物が前に移動している。その隣の文化住宅が道路側に落ちて
いる。


 下には、家を支えるようにして、トラックがひしゃげていた。


 奥まった所に建てられていた古いアパートは、1階がなくなってしまっている。


 西側の建物も、ほとんどぶっ倒れている。


 東側の金持ちの総ひのき造りの豪邸が、無惨な姿に変貌している。


 瓦が落ち壁が落ち、建っていることで、かろうじて以前の姿をとどめている。


 ぼくは、再び震えがきて止まらなくなってしまった。


 ぼくの家だけは、建ち残ったんだ。


 これは、特異な出来事なのだ。


 ぼくは、いままでにも何回か地震を体験しているが、家が倒壊したような事実
を実際に見たことがないし、経験したこともない。


 だから、地震を体験しても、家が建っているということは、別に不思議なこと
でなかった。


 外に出たとき、わが家が、建ち残っていることには、なにも疑念を抱かなかっ
た。


 ところが、外に出た途端に、周りの家は、ほとんど壊滅状態になっている。


ということは、わが家だけが残ったということは、特別なことだったのだ。


 再び、ゴオーッと轟音が聞こえる。


 道路に出ている人が、「余震だ」と叫ぶ。


 とたんに、道路がミシミシと揺れ始める。


 「わあ、こわい」と嬌声があがる。


 暫くすると、静かになる。


 向かいの文化住宅に対して、L字型にアパートが立っている。


 奥をみると、完全に崩壊している。


 ぼく自身、放心状態になりぼんやりと見つめていたのだが、その時、奥から、


「だれか、助けて。助けてやって」


という中年婦人の声が聞こえたのである。


 そして、その狂乱した様子から、初めて気がついたのだった。


 「そうか、埋もれている人がいるんだ」


 ぼくたちは助かったけど、生き埋めになっている人がいる。


 そういえば、あのアパートには、独り身の人たちが多く住んでいたように聞い
ていた。


 交友はなかったから、名前も知らないし顔も知らない。


 そこに往んでいた人たちはだれも出てきていない。


 ぼくの右前の家の木造家屋は、ちょうど一年前頃に引っ越ししてきた人の筈だ。


 その家の息子が右往左往している


 「お父さんとお母さんと妹が埋まったままなんです」


 必死に助けを求めるがぼくには、どうしてやったらいいのか手の打ち様がない。


 懇意にしている三軒隣の酒店も崩壊している。


 おばあちゃんが寝ているはずだが、どうなっているのだろう。


 裏手の家も、すべてぺっしゃんこだ。


 ぼくは、マンションからふらふらと表通りを出て、国道二号線沿いを西に向か
って歩いていた。


 通りの木造家屋は、すべて倒壊していた。


 よく食べにいった食堂、毎朝、買っていたパン屋さん、なじみの散髪屋さん、
みんなみんな無残な姿を呈していた。


 助けてと泣いている男がいる。


 必死になって家屋を除けようとしているが、ほとんど動かないい。


 まわりが、こんなに崩壊してしまったのに、ぼくたち家族は、よく助かった
ものだ。


「子どもが、埋もれているんです。助けてやって」


 人々が、狂乱のように泣き叫んでいる。


 ぼくは、あてもなく西へ西へと歩いていった。


 しばらく歩くと、毎日、通勤時に見慣れていた巨大な宮地病院が崩壊してい
た。

 鉄筋コンクリートの一階部分が崩れ落ちている。


 何人かの職員や看護婦さんたちは、入院患者を運び出していた。


 そして、二人の当直看護婦さんが閉じこめられていると聞いた。


 ぼくは、唖然として急ぎ足で家に帰ったのだった。





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